「年内入試」で合格、苦労する学生たち 大学で増える中高授業「学び直し」支援
学習支援は必須という現実
2010年代、大学の学習支援を揶揄するような報道があった。ある週刊誌がこんな見出しを掲げておもしろおかしく伝えた。「本当にあった『バカ田大学』 授業はアルファベットの書き方から」「『be動詞のおさらい』『小・中学校レベルの数学」…驚くべき授業内容」。当時、わたしはこうした大学の一つと親交があった。この大学の学長はこう説明してくれた。 「英語や数学が嫌いな学生は、中学時代のつまずきで先に進めなくなったことがわかった。それゆえ、中学時代からのやり直しの必要性を感じ、中学高校レベルの学習内容が記されたシラバスを作った。私たちはそれを正直にウェブサイトに公開した。同じような教育を行っている大学は表にしていない。でも、私たちは隠すようなことはしない、恥じていないからだ。私たちは、勉強嫌いになった状況を放置され続けた学生を受け入れ、高等教育を受ける意欲を取り戻させることまで請け負っている」 立派な教育論である。 大学を揶揄するのは、「大学は~~であるべき」という、古びた見方によるものだ。1980年代に比べれば、全体的にいまの大学の学生は学力面で30年前、40年前よりも低くなった、と大学教員は異口同音に話す。それは間違いない。 なぜなら――。 2020年代、大学進学率は55%を超えている。1990年前後は20%台半ばで推移していた。1992年の18歳人口は約204万9000人で大学進学率が26.4%。2022年の18歳人口は約112万1000人で大学進学率は56.6%となっている。 少子化が急速に進む一方、大学進学率が上昇する。これが何を意味するのか。オブラートにつつんだ言い方をすれば、大学にはさまざまな能力や個性を持った学生が増えてにぎやかになった。教育現場からのリアルな報告をまじえて言えば、学生が授業についていけないなど、これまで大学に進まなかった学力不十分な学生が多くなった――のである。 したがって、いまの大学に合った教育、つまり、学生にもっとも適した教育を行うために、大学が学習支援に力を入れるのは当然である。必然と言っていい。 いまの大学の姿をきちんと見てほしい。学生の学力不十分な実情も知ってほしい。だからといって、いまの大学が悪い、ということではない。 少子化と進学率上昇で、令和のこれからも、キャンパスには学力面で不十分な学生が増えるだろう。その現実を受け止めて、学習支援をしっかり行う大学に注目してほしい。とくに総合型選抜で入学を考える受験生や保護者は、中学高校の学び直しにどれだけ力を入れているか、教員やアドバイザーがいかに学生をサポートしているかを大学選びの1つの基準にしてほしい。大学で中学高校の学び直しは、将来を見据えれば恥ずかしいことではない。
朝日新聞Thinkキャンパス