『わたしの知る花』著者、町田そのこさんインタビュー。「真摯に生きれば誰かに繋がっていくものがあります」
「真摯に生きれば誰かに繋がっていくものがあります」
主役は高校生の女の子・安珠。〈お姫様みたい〉な顔立ちに真っ直ぐな気性、ボーイフレンドは学年一のイケメン! 本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』はじめ、育ちに影のある主人公が多い町田そのこ作品には少し珍しい。 「これまで描こうとしていなかった生命力たっぷりの女の子を書きたくて。恵まれているゆえに視界が狭くて、他人について想像を巡らすことができない。そういう子の目線からでも、人生の奥深さを見つめることができるようになる。そういう物語を書こうと」 安珠の住む小さな町に、謎の老人が現れる。黒ずくめの服装、画板を肩から下げて歩く姿は住民のあいだで密かに噂にのぼる。安珠は偶然にその老人、葛城平(かつらぎへい)と交流することとなり、彼の素性に興味を持つ。そのことがさざなみのように家族や周りの人びとに影響を与え、皆の人生を動かしていく。
作中何度も現れるのがタイミングという言葉。平は安珠に言う。 〈「ひとってのは、どれだけ相手を求め合っていても、考え合っていても、タイミングひとつでズレてしまう生き物なんだよ」〉 この台詞に中高年はハッとして、いくつかの顔を思い浮かべずにはいられない。あのとき伝えられなかった言葉。もし今のように何かと便利な世であればすれ違わずに済んだのか……などと。
人は頑張らなくても誰かに繋がり、残せるものがある。
「今回、タイミングということをひとつのテーマにしています。人生とは取り返しのつかないもの。いま後悔している大人がいるからこそ、若い人にはタイミングを大事にしてほしいという意味で」 作品のさらなる読みどころは、安珠と平に関わる人びとの人生の立体感だ。頑固さゆえに同居する息子家族に疎まれる老人・光男は、安珠の幼なじみの少年・奏斗(かなと)と出会い、己の中の善きものを見出す。 「書いて良かったなと自分でも思っている章。嫌なジジイだと言われる光男にも人生の正義があり葛藤もあり、と書いたら最後は悪い人じゃなかったなと読者に思ってもらえるかなと」 光男が奏斗と関わることで変わっていったように、 「どうしてこの人の言葉が自分に響くんだろう、という不思議な縁ってあると思う」とも。 「今って携帯で自分の世界に篭って、自分と同じような考えの人とSNSなどで簡単に繋がれてしまう。その分、生活範囲でたまたま知り合う人とかには無関心になってきましたよね」 そんな突然の触れ合いに素晴らしい出会いがあるかもしれないよ、と伝えたくてと町田さん。そして 「自分のなんてことない、自分の記憶にもないひとことや行動が誰かの心に残ったり、励ましたりすることがある。ちゃんと生きぬけば繋がっていくものがあるんだよ、そう伝えることができたら」 ひまわり、クロッカス、クレマチス。各章にわたって花が作品世界を彩り、読後感を明るくする。