栄光のホンダF1は、フェラーリやポルシェよりも優れたエンジンだった!「RA272」のV12の秘密とは…「ホンダ・エンジン神話」復活希望です!
ライバルに追随せずにオリジナルのインジェクションを開発
そしてそのパフォーマンスの素晴らしさも、目を見張るばかりだ。最高出力は230bhpでライバルに対して20~30bhpほどアドバンテージを持っており、そのパワーを発揮する際の回転数は1万2000rpm。ちなみに前年の「RA271E」エンジンは220bhp/1万5000rpmで、それでもライバルに対しては十分なアドバンテージがあったのだから、F1GPのシビアさとそれに向かい合ったホンダの技術者の、挑戦者魂には恐れ入る。 当時のF1GPはキャブレターからインジェクションへの移行期だった。ライバルはこぞってルーカス製のインジェクションを使用していたがホンダはオリジナルのインジェクションを開発し、デビュー翌戦から使用している。多くのチームが使用していたからルーカスの「汎用」インジェクションは短期間で熟成したであろうことは想像に難くないが、ホンダはたった1台での開発であり、しかも開発の本拠地はF1GPが戦われている欧米とは遥かに離れた極東の地であることも大きな壁となっていた。それでも1戦ごとに改良の手が加えられ、ついに1965年のメキシコGP、ホンダRA272の初優勝に貢献することになる。
2輪のWGPでの技術が役に立った?
その一方で別の見方もある。横置きのマルチシリンダーでパワー・センター・テイクオフというエンジンのパッケージングは、ホンダが2輪のロードレース世界選手権(WGP)でよく使用した手法だったし、何より2輪ではエンジンを横置きマウントするのが一般的だった。このことからもRA272Eの開発が2輪のWGPレーサー用のエンジンのそれと同じで、当然出来上がったエンジンも2輪のWGPレーサーと似たような性格を持っていた。つまり回転を極限まで引き上げて最高出力を稼いでいたものの、中速域のドライバビリティが犠牲になっていたはずだ。 そして軽量な2輪のWGPに比べて重いF1GPマシンでは、そのドライバビリティのディスアドバンテージはより大きくなってくる。もちろんエンジン開発に携わった技術者が指をくわえて見ていたわけでは、決してない。しかし結果的には最高出力=パワーのアドバンテージでドライバビリティのディスアドバンテージを跳ね返してメキシコGPでの初優勝をもぎ取ったのだ。
ホンダファンが切望するのは「ホンダ・エンジン神話」の継承
これは余談になるが、この第1期F1GP活動で「ホンダ・エンジン神話」がファンの間に定着していったと思われる。そして「ホンダのエンジンは最高だ!」と絶賛するファンの輪が広がり、ホンダを支えていった。だから電動車の必要性は認めるけれども「内燃機関の開発は取りやめます」などとは二度と聞きたくない。あの会見で「多くのお客様、多くのファンのためにも、電動車だけではなくエンジン開発は続けていきます!」と言って欲しかったなぁ、と古くからのホンダファンのひとりとしては思うのだけれど。
原田 了(HARADA Ryo)
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