地域は違えど欲求は同じ ホンダWR-Vに見る「お手頃価格」と「世界戦略車」を両立させるアプローチ
ホンダのパッケージング部門はデザイン室内にある
──パッケージング担当者は、エクステリアデザインにはどこまで携わるのでしょうか? 黒崎さん:難しいですね……でも普段から話をしながら進めています。最初は一枚のキースケッチみたいなものから始まるんですけど、たとえば「これだと人が座ったときに前が見えないでしょ」とか「空間的にはもう少し広くしないとバランス悪いよ」みたいなことは、常に対話しながら作っていますね。 ──黒崎さんはWR-Vの前は、どんなクルマを担当されたのですか? 黒崎さん:今年、日本導入が発表された新型アコードを担当していました。国内車種でいくとN-WGNとN-ONE、それからインドで売っている4mセダンのアメイズ……そのようなところをチョコチョコと(笑)。 ──車種バリエーションが豊かですね。 黒崎さん:パッケージ担当がどういうクルマを担当するかというのは、そのときの開発日程に空きがあったり、そういうのが得意な人が引っ張られてくるので、特定の車種だけ担当する人はいないですね。 ──元々パッケージング専門なのですか? 黒崎さん:ホンダはパッケージデザイナーの募集があって、私はそこに応募しました。元々は建築を学んでいたんですけど、図面管理というか、数値で座り方や人やモノの座標などを管理しながら、エクステリア、インテリアの担当者と目標値を握ってクルマを作っていきます。 ──建築と自動車というと、だいぶ領域が異なるようにも感じますが、建築で培った知識や感覚が活きるのですね。 黒崎さん:そうですね。図面が最初からある程度読めるのは良かったです。ただ、やっぱり最初は勝手が違うんですよね。建築だと平面図がメインだったりするのですが、クルマの場合は立面や断面図がメインになるので、図面を読み込む感覚を養うのには時間はかかりました。でも、クルマの内部構造を知るというところで言えば、建築でもやっぱり構造設計などがあるので、そういうところは役に立ったと思います。 あとは、他社さんだとパッケージレイアウトは人間工学に近い部署にあることが多いですけど、ホンダは創業以来パッケージレイアウトの業務がデザイン室にあります。 ──MM思想(人のスペースを最大化し、機械の部分を小さく抑える設計思想。MMは“マンマキシマム・メカミニマム”の意)もそこから生まれたわけですね。というと、皆さん研究所のデザインセンターでお仕事をされている? 黒崎さん:そうです。私の隣はエクステリアデザイナーだったり、インテリアデザイナーだったり、CMFデザイナーだったり……そういう環境で仕事をしています。 ──WR-Vは自信作ですか? 黒崎さん:自信作ですよ。開発してる間はちょうどコロナ禍の時期で、私はひとりでパッケージのPLとしてやっていました。エクステリアやインテリアのデザイナーたちはタイを拠点にしていたので、日本にいるのは私ひとりだったんです(笑)。最初はひとりでポツン……とやってました(笑)。リモート会議でも、こちらで作ったものをスマホなんかで見せながら、「どうなってんの?ちょっと見せて」みたいな。そんな感じで開発を進めていたのですが、WR-Vは自信を持ってお客様に提案できるクルマに仕上がっています。
上坂元 宏樹