イーロン・マスクは"史上最悪の相棒"である…トランプ次期大統領の「偉大なアメリカ」がたどる残酷な未来
ロサンゼルス在住若手ジャーナリストで陰謀論の専門家でもあるマイク・ロスチャイルド氏のインタビュー第2弾――。同氏は、『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(烏谷昌幸・昇亜美子/訳、慶應義塾大学出版会)の著者でもある。米大統領選直前に配信した前編に続き、後編では、人が陰謀論という罠にはまる背景や、トランプ氏の支持者が多い地方のコミュニティーで陰謀論が広まりやすい理由、イーロン・マスク氏のツイッター買収と陰謀論の関係といった問題に加え、大統領選後の追加取材を盛り込み、リポートする。 【この記事の画像を見る】 (前編から続く) ■マスク氏の資金力とXを利用して、トランプ氏は勝利した ――どのような陰謀論がトランプ氏の追い風になったと思いますか。陰謀論は、ハリス氏よりトランプ氏に有利に働いたといわれます。 特定の陰謀論がトランプ氏を勝利に導いたかどうかはわからない。とはいえ、彼が「不法移民やインフレ、進歩主義的な政治を解決できるのは自分だけだ」と訴えるべく、アメリカ人の被害妄想と恐怖心を利用したのは確かだ。トランプ氏は実に多くの陰謀論を広めてきた。どの陰謀論が彼の勝利を後押ししたのか特定するのは難しい。 ――イーロン・マスク氏は、世界有数のSNSである「X」の経営者として、大統領選にどのような影響を及ぼしたと思いますか。同氏は、第2次トランプ政権のキーパーソンとみられています。 マスク氏が資金力とXの影響力を駆使し、トランプ勝利に影響を与えたことには疑いの余地がない。とはいえ、具体的にどれだけ多くの人々(の投票行動)に影響を及ぼしたのか、また実のところ、新政権でどのような役割を果たすのかを現時点で正確につかむのは難しい。トランプ氏とマスク氏のエゴの大きさを考えると、「共同大統領」というマスク氏の役割をめぐり、2人が衝突したとしても不思議ではない。
■Twitter→Xで、陰謀論がよりはびこるようになった ――米ツイッターは2022年10月、親トランプ氏のイーロン・マスク氏に買収され、「X」になりました。 ツイッターは買収で様変わりした。「認証バッジ」の有料化で、アカウントの「認証」を買えるようになったため、認証システムは実質的に崩壊したようなものだ。陰謀論やヘイト、過激な投稿を拡散しやすくなり、投稿の節度も、ほぼ完全に失われた。多くのコンテンツモデレーターがお払い箱になったと報じられている。使い勝手が非常に悪くなった。マスク氏自身も、ある種の陰謀論者であることを考えると、問題解決には役立たない。 ――『陰謀論はなぜ生まれるのか』によると、陰謀論を信奉する人々の多くは「普通の仕事や愛する家族」を持っており、絶えず暴力的な思考にふけっているわけではないそうですね(第6章)。ごく「普通の人」という印象を受けます。 そうだ。誰もが陰謀論者になりうる。人には、「真実でないこと」を信じてしまう傾向があるからだ。コロナ禍で、その傾向が強まった。多くの人々が突然、一日中家にいることを余儀なくされ、失業し、家族や友人とも会えなくなって孤立し、やることもなくなってしまった。人々は怒りに駆られ、なぜこのようなことが起こったのか、責めを負うべきは誰かを考えあぐねていた。 そうした、人生の苦難の真っただ中にいる人々の目には、陰謀論が実に魅力的に映ったはずだ。なぜコロナ禍が起こったのかという一般論にとどまらず、なぜ自分がこうした目に遭っているのかという理由付けまで提供してくれるのだから。経済的な問題や医療債務、個人破産は多くの人々を過激な右翼思想や陰謀論へと駆り立てる。 ■陰謀論者になるかならないかに教育レベルは関係ない 人は往々にして「自分が陰謀論者になるはずがない」と思っている。頭がいいからウソの見抜き方を心得ている、と。だが、何かを信じるのに教育レベルは関係ない。その陰謀論が腑に落ちると感じれば、人は信じてしまう。 また、人間の脳は、理解できないものや未知のものに「危険」を感じるような仕組みになっている。餌食にされたり利用されたりしないよう、耳慣れない音や影、暗闇を恐れることは進化上、有益だった。 今でもそうした機能が残っており、人は暗闇の中に「何か」を見いだす。その「何か」が、人間を捕食する動物から、ユダヤ系米国人の大富豪ジョージ・ソロス氏や人身売買の一味に変わっただけだ。人々が恐れを感じる「何か」だ。陰謀論は、危険を察知してパターン化しようとする人間の脳に影響を及ぼす。