イーロン・マスクは"史上最悪の相棒"である…トランプ次期大統領の「偉大なアメリカ」がたどる残酷な未来
■陰謀論は銃乱射事件などの凶悪犯罪を引き起こしかねない ――最も危険で有害だと思われる陰謀論は? コロナ禍の反ワクチン運動は、ほぼすべてが陰謀論にのっとったものだ。もちろん、製薬会社が誰かの「友人」であることに異論を唱える人はいない。だからといって、ファウチ博士(アメリカで新型コロナウイルス対策の指揮をとった感染症専門医)や米ファイザー、医師らが巨大な陰謀をたくらみ、有毒なワクチンで人々を皆殺しにしようとしているなどという考えは危険だ。 反ワクチン論者は、ファウチ博士が新型コロナウイルスワクチンで何百万人もの人々を「大量虐殺」しようとしていると主張した。それもこれも、すべて陰謀論のなせる業だ。 大統領選関連で危険な陰謀論は、移民をめぐるものだ。ジョージ・ソロス氏など、権力を持ったユダヤ系グループが米国に移民を流入させ、「外国の侵略者」に米南部の国境地帯を制圧させようとしているという。そして、民主党が永遠に政権を取り続けると。そうした陰謀論は、銃乱射事件や恐ろしいレトリックを引き起こしかねない。 ■トランプを「ヒーロー」に感じたアメリカ人 ――アメリカの主流メディアは、Qアノン信者を世間知らずの白人労働者で中西部の差別主義者だとみなしていたそうですね(書籍第3章)。なぜアメリカの主流メディアは、トランプ氏が2015年に大統領選に出馬するまで地方の白人ブルーカラー層に関心を払わなかったのですか。 主要メディアの大半は、ニューヨークやワシントンDC、ロサンゼルス、サンフランシスコなどに本社がある。そのため、地方で何が起こっているか、わからないのだ。国内の大半の地域では、地方紙が(ネットの台頭で)廃刊に追い込まれている。 地方では、医療用麻薬として使われる鎮痛剤の乱用や過剰摂取による死亡など、鎮痛剤による危機が蔓延していたが、当初、メディアの多くは報道に二の足を踏んだ。扱うには手ごわすぎる問題だと感じたからだ。また、読者や視聴者が気に留めるようなことではないという認識もあった。 その結果、多くの人々が「自分たちの問題を報じてもらえない」「政治家も関心を払ってくれない」と感じていた。そこにトランプ氏が登場し、「私はあなた方の擁護者だ。エリート連中を権力の座から引きずり下ろし、偉大なアメリカを取り戻す!」と訴えた。もちろん、大統領選に向けたアピールにすぎなかったが、地方の有権者の多くは彼の言葉を信じ、1票を投じた。 ちなみに鎮痛剤危機を招いた大きな問題の一つは、製薬会社が、軽い痛みや軽症の手術にも非常に強力な鎮痛剤の処方を推奨したことだ。大手製薬会社が必要のない薬を大量に投与している、といった状況に端を発した陰謀論もあるが、一部は「真実」に基づいている。ファウチ博士に関する陰謀論とは違い、企業が儲けを増やそうとする、「資本主義」ならではの現象だ。