ヤマザキマリ かつてイタリアで問題視されていた<事実婚>がメジャーに。結婚という制約に囚われて苦しむのはごめんだ、と若い人たちが考えるようになったことの表れか
親族の集まりで元気がなかったマリさんの義妹。事情を聞けば、長く暮らしてきた事実婚のパートナーと別れたのだそうで――。(文・写真=ヤマザキマリ) 【写真】マリさん撮影イタリア人のカップル * * * * * * * ◆イタリアの婚姻事情 先日、北イタリアの夫の実家で親族の集いがあり、久々に私も顔を出すと、3月に会った時は元気そうだった義妹がなにやらげっそりとやつれている。二人の幼い子どもたちの前では気丈にふるまっているが、笑顔を繕っても眉間に深く入ってしまった皺は消えない。 親族の一人が思わず、あなた大丈夫? と尋ねると「別れたのよ」とひとこと。 義父母は事情を知っていたらしく、気まずそうに子どもたちを連れてその場からそそくさと離れていった。 義妹は結婚をせずにパートナーと暮らしていた。二人の子どもたちが生まれたあとも、どちらも結婚する意向はなかったという。
◆結婚のメリットは何なのか 一昔前のイタリアであれば問題視されていた事実婚だが、今ではメジャーな選択となっている。 2016年、同性カップルに結婚に準じた法的権利を認める法律が施行された際に、事実婚の法律内容も改正され、婚姻関係に近い権利が保障されるようになったのも理由のひとつかもしれないが、先行き不透明な経済情勢の影響で実家から離れられなかったり、自分の親の不仲を見ているうちに結婚に希望を見出せなくなった、という若者たちは確実に増えている。 確かに、子どもが法律婚で生まれようと事実婚で生まれようと法の適用が同じなら、結婚のメリットは何なのか、という話にもなってくる。 私が留学していた頃のイタリアは、フランスやドイツと比べ、キリスト教的倫理観がしっかりと根付いており、世間体や体裁を強く意識する傾向があった。 私も当時同棲していた彼氏の母親から、「親族に対して恥ずかしいから、一緒に暮らしたいのなら早く結婚を」と急かされた。しかし、今ではそんなことを言う親も減少傾向にある。
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