ヤマザキマリ かつてイタリアで問題視されていた<事実婚>がメジャーに。結婚という制約に囚われて苦しむのはごめんだ、と若い人たちが考えるようになったことの表れか
◆子どもたちはママを裏切らないもの 何はともあれ、イタリアで事実婚が増えた最大の要因は、簡単に離婚ができないという事情だろう。 子どもがいたり、共有財産がある場合、離婚するには夫婦がすでに法的に別居している必要がある。別居の申請をしてから最短半年で離婚が成立、協議離婚は12ヵ月、合意が叶わない場合は何年もかかる。 別居期間を長く設けるその背景には、夫婦の関係性の修復が意図されているのかもしれないが、私の周りの友人たちは離婚が成立していなくても、別のパートナーを見つけるなりして新しい人生を築いている。 こうした事例が当たり前になりつつあるのも、人生何十年も生きていくなかで結婚という制約に囚われ、苦しむのはごめんだ、と今の若い人たちが考えるようになったことの表れだろう。 義妹の相手は少し前から同じ街に暮らす二人の子持ちのバツイチ女性を好きになって、家に戻ってこなくなったのだそうだ。酷いけれど、事実婚らしい顛末だ。 失業中という理由で自分の子どもたちへの養育費も払われていないという。 「何よそれ、戦いなさいよ!」と親族の叔母さんにせっつかれても、「いいの、子どもたちがいるから。子どもたちはママを裏切らないもの」と言って、彼女は膝の上の5歳の息子をぎゅっと抱きしめた。 それを見ていた夫がひとこと小声で、「事実婚のせいでますます親子依存が増えていく気がする」とつぶやいた。 (撮影=ヤマザキマリ)
ヤマザキマリ
【関連記事】
- ヤマザキマリ「なぜ外国人旅行客はTシャツ短パン姿なのか」と問われ、あるイタリア人教師を思い出す。観光客ばかりナンパする彼が言っていた「愚痴」とは
- ヤマザキマリ 母の葬儀を進める中イタリア人の夫が発した意外な一言とは。母がその場にいたら、息子と夫のしどろもどろな様子を前に呆れながら笑っていたにちがいない【2023編集部セレクション】
- ヤマザキマリ「感情を揺さぶられたくない」から恋愛を避けて映画はネタバレを求める若者たち。これからは笑いに愚痴に忙しい「中年以上の女性」が司る社会になるのかも
- ヤマザキマリ コロナ禍で離婚が増えたと聞き。いい夫婦を装うことを私は選ばない。むしろ「夫」「妻」がすべて、と断言する人に何か穏やかではないものを感じる
- ヤマザキマリ なぜ私たち夫婦は「家の核は台所」という考え方に違和感を覚えたのか。食料庫よりプライベート空間を優先したい家族もいるということ