社説:北朝鮮の派兵 ロシア加担の暴走防げ
北朝鮮が、ウクライナ侵攻を続けるロシアに大規模な派兵を進めている。国際法違反の蛮行に加担する行為であり、北東アジアの安全保障への脅威にもつながる。断じて許されない。 米国防総省は、北朝鮮が約1万人をロシア東部に派兵したとみており、一部はウクライナが越境攻撃するロシア西部のクルスク州に入ったと会見で説明した。 北朝鮮兵が戦闘に加われば、事実上の参戦にほかならない。2年半余りに及ぶウクライナ侵攻が一層混迷を深める。国際社会は結束して暴走を止める必要がある。 ロシアと北朝鮮は6月、有事の際の相互支援を定めた「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、軍事連携を強化している。派兵について北朝鮮は明言を避けているが、ロシアのプーチン大統領は否定していない。 これまでにも北朝鮮はロシアに弾道ミサイルや弾薬を提供してきたとして北大西洋条約機構(NATO)が非難している。 ロシア側の死傷者は計60万人に上るとの米紙推計もあり、兵員不足は深刻とされる。ロシアの派兵の求めに、北朝鮮が応じた可能性がある。 兵士に実戦の経験を積ませ、投入した兵器の性能も検証できる。さらに見返りとして食料やエネルギーの支援のほか、ロシアからより高度な核・ミサイル技術が得られる。そんな打算も読み取れる。 北朝鮮の戦力向上やロシアとの軍事協力の深化は、地域の不安定さを一段と高めかねない。 北朝鮮が韓国を敵視する姿勢を強めていることも気がかりだ。 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は1月、南北共存は不可能として、平和統一の放棄を宣言。南北を結ぶ道路や鉄道を次々と爆破し、韓国を「敵対国家」と位置付ける憲法改正を行った。 強硬姿勢の背景には、韓国との経済格差が広がる中、接近するロシアを後ろ盾に、南北間の緊張を高める思惑が透ける。エリート層で脱北者が相次ぐ状況で体制内を引き締める狙いもうかがえる。 挑発から偶発的な衝突に発展する事態を防ぐため、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は十分な注意が求められる。 ロ朝の接近で力の均衡が崩れ、紛争リスクが高まる事態は、北朝鮮の最大支援国である中国も警戒感を募らせているとされる。 日米韓を中心に中国への働きかけを強め、連携して緊張緩和の糸口を探りたい。