「青春18きっぷ」はもう役目を終えた? “自由”を奪うルール変更、JRの事情は分かるが「独自の魅力」はどこへ行く
3回分に期待
概して不評といえる青春18きっぷのルール変更だが、評価する声もある。その代表例が、新規設定される「3回分」への期待だ。 1万2050円の5回分に対し3回分は1万円と割高だが、2泊3日という手軽さは訴求力があるだろう。従来の5回(人)分では「使い切る自信がない」と考えていた人たちにとっては、ハードルが下がったといえる。 また、「有効期間」の捉え方を変えれば、多少は抵抗感が薄れるかもしれない。従来の「5回(人)分」では 「元を取る」 ことを気にするあまり、1回使うごとに「1回分の値段(2410円)を超える距離に乗らなければ」という「義務感」のようなものを抱くことが多かった。対して新ルールでは「3日間有効」「5日間有効」となるため、その期間内に 「トータルで元を取る」 と捉え方を変えれば多少は抵抗感が薄れるかもしれない。例えば、3日用ならば1、3日目を移動日とし、2日目は観光や滞在に充てる。5日用ならば1、3、5日目に長距離移動し、2日目と4日目にはゆっくり過ごす、といった形だ。 前者の場合、片道5000円以上の区間ならば元が取れる。本州3社の幹線ならば281km以上、東京起点で豊橋あたりまで行けばいい。後者の場合は3日間の移動日に各4000円強の距離を移動すればよく、同じように本州3社の幹線でいえば221km以上、東京~掛川間程度の距離である。いずれも、幹線ならば半日で移動できる距離だ。 従来の青春18きっぷよりは「お得」の度合いは低くなるが、長距離の普通乗車券を有効期間ギリギリまで使うケースがまれであるのと同様とも捉えられる。「元を取る」ために「距離を稼ぐ」よりも、旅のプランを洗練させ、充実度を高める工夫が利用者に必要だろうし、そういう楽しみ方もあり得るだろう。
ニーズは「格安」だけか
とはいえ、前項は新ルールの青春18きっぷを楽しむならば……との観点であって、やはり多くの利用者が求めるのは、従来の「自由度」の高さだろう。 前稿に対するコメントには、「国鉄~JR初期に『青春18きっぷ』を利用できた中高年層は、今より個性的な列車やダイヤを楽しめた」とうらやむ一方で、 「今の社会は厳しく感じられる」 といったものもあり、社会の余裕のなさが鉄道サービスにも反映されている、との見解もあった。社会の「世代間対立」が、鉄道旅行の世界にも表れた形だ。格安航空会社(LCC)や高速バスの普及にともない、青春18きっぷの 「経済的な優位性」 は相対的に低下している。しかし再三述べたように、旧ルールの「自由度」は、他の交通機関にはない 「鉄道独自の魅力」 ではなかったか。 経営環境の厳しさが増す民間企業に、身を削るサービス提供を求めることはできないが、しかし民間企業の一商品がここまで愛され、ルールの改変が議論を呼ぶことには注目したい。利用者が青春18きっぷに求めるのは運賃のディスカウントだけではない。青春18きっぷは 「文化としても捉えられる」 との切実な声も、最後に紹介しておきたい。
豊科ホタカ(新聞記者)