柴咲コウのいてつくまなざし、不穏に動くルンバ......『蛇の道』黒沢清監督「面白い映画とは怖い映画である」
■女性を描くのはずっと苦手だった ――今回の『蛇の道』に至る監督の作品歴を振り返ると、初期から中期までは役所広司さん主演の『CURE』(97年)や『ドッペルゲンガー』(02年)など、男性主人公の作品がほとんど。 しかし、近年は今作のように女性主人公の作品が急増しています。この変化は意識的なものだったのでしょうか? 黒沢 そういうわけではないのですが、ご指摘の変化は自覚しています。そのきっかけになったのは2012年にWOWOWで監督した『贖罪』という5人の女性主人公が登場する連続ドラマですね。 もともと僕は女性を描くのは苦手で、ずっと避けていたんです。なおかつ、『贖罪』は湊かなえさんの同名小説の映像化だったのですが、自分は原作ものもほぼやったことがない。苦手ずくめの企画でした。それでも当時は僕自身、あまり仕事のない時期だったこともあり、「とにかくなんでもやります」と引き受けて。 メインキャストにそうそうたる女優たちが名を連ねる中、「自分にできるのか」「でも仕事だからやるしかない」という不安を抱えながらの撮影でしたが......これがすごく良かったんですよ。 恥ずかしながら、日本の女優の質の高さに驚かされました。「これなら自分でも女性主人公の作品をやっていけるかもしれない」という手応えがありました。 あのドラマが評価されたことで、業界内でも「黒沢は女性主人公の映画も監督できるんだな」という雰囲気が生まれたのだと思います。実際、そこから『岸辺の旅』や『散歩する侵略者』といった女性主人公の企画をいただくことが一気に増えましたからね。 ――『贖罪』から生まれた女性主人公の流れが20年にベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『スパイの妻~劇場版』につながっていくわけですから、本当に大きな転機だったのですね。 黒沢 原作ものをやらせてもらえるようになったことで、自然と監督する映画のジャンルも広がりましたね。