【相撲編集部が選ぶ九州場所8日目の一番】琴櫻、“大関相撲”でトップ並走。1敗勢も大の里も揺るがず後半戦へ
いつも“大関相撲”を取るぐらいの気持ちでいたほうがいい結果が出るのではないか
琴櫻(上手捻り)美ノ海 うるさい相手を、土俵中央で転がした。琴櫻が美ノ海を落ち着いて退け、優勝争いのトップ並走状態を保った。 この日の相手の美ノ海とは初顔合わせ。横への動きもあるすばしこい力士で、特に左の前廻しを与えてしまうと力が出るので、うるさいことになる。いつもモロ差し狙いで立つ琴櫻は、根が右四つなので、立ち合いに左の前廻しを取られる可能性はある程度あり、どのように取るかが注目された。 果たして立ち合い、琴櫻は下から手を伸ばしてきた美ノ海に左で前廻しをつかまれた。ただ、それでも琴櫻は慌てなかった。美ノ海が次の動きに来る前に、左を差し、右は差し手にこだわらず、上手から廻しをつかみにいって、美ノ海の体をホールド。相手の横への動きをある程度封じることに成功した。 最初の寄りは左からの下手投げで体をかわされ、その後もおっつけから右の巻き替えを狙ってくる美ノ海の動きに多少手は焼いたが、重心を崩されるような大きな動きは許さず。差し手争いの中で、左から起こしながら、逆の右上手から捻る合わせ技で、鮮やかに美ノ海を転がした。 【相撲編集部が選ぶ九州場所8日目の一番】霧島除く大関・関脇総崩れ。貴景勝は休場明けの朝乃山に敗れ3敗目 「落ち着いて取れていると思います。(上手捻りは)流れの中で出た」と琴櫻。美ノ海に「ダメですね、立ち合い差されちゃったので」と言わせているとおり、左の廻しを与えない、という局所的なところにこだわらず、たとえ左の廻しを与えることになっても、大枠で相手の動きを封じればいい、とどっしり構えて取ったのが、いい結果を生んだと言える。 悪いときは腰を引いて相手を手先でさばきに出るような相撲になることがある琴櫻。もちろん器用にうまい相撲を取れることが持ち味でもあるのだが、むしろこれぐらいどっしりと構えて、いつも“大関相撲”を取るぐらいの気持ちでいたほうがいい結果が出るのではないかという気もする。 今場所は序盤はさほどいい内容には見えなかったが、4日目に若隆景を降したあたりからグッと上昇、この日まで好内容の相撲が続いており、初優勝への期待もまた、グッと膨らんできた。 この日は、豊昇龍は同じ飛行機で来日した間柄の欧勝馬を豪快に投げ飛ばして退け、隆の勝はこれまで対戦成績3連敗の翠富士を圧倒、阿武剋は日体大の2年先輩の朝紅龍をしっかり組み止めて破り、琴櫻以外の1敗勢もそれぞれ好内容でトップ並走状態を堅持。さらに2敗組でも大の里が翔猿の動きを怖がることなく一気に前に出て料理、尊富士も竜電を圧倒し、優勝争いはほぼ状況に変化はなかった。 したがって後半の優勝争いの展望は、きのうと変化なく、まずは隆の勝の大関戦が組まれていってどうなるか(ちなみに9日目には組まれなかった)、そこで波乱がなければ、終盤の大関の直接対決で決着。その時点で阿武剋や尊富士がついてきていればそこも加えた対決もある、という感じのままだが、この日の3大関それぞれの、“大関相撲”での勝ちっぷりを見ていると、やはり最後の「大関リーグ」で決着する展開が今年の最後を飾るにふさわしく、そこへの期待が、ますます、ますます、高まってきたような気がする。 文=藤本泰祐
相撲編集部