弱者のはずだった「テレビ東京」が…元テレ東プロデューサーが絶好調の古巣にあえて苦言を呈する訳
テレ東が「ワイドショー」をあきらめた訳
松本人志氏性加害疑惑の際にも、ジャニーズ性加害問題でも、独自路線のおかげでほとんど被害がなかったといわれるテレビ東京。前編に引き続き、ブレない独自路線の根本にある「テレ東魂」を、元テレビ東京プロデューサーで桜美林大学芸術文化学群教授の田淵俊彦氏に深掘りしていただきます。 【画像】凛々しい…! 田中瞳アナ・テレ東エースが 「あざとくないのに愛されるワケ」 ◆「やってみなはれ」の精神 なぜテレ東は、そんな独自の道をゆけるのだろうか? それは「身軽」だからである。この「身軽」という言葉の裏には、三つの「少」という事情が隠されている。 ・収益が少ない ・視聴率が少ない(低い) ・人数が少ない 二つ目の「少」、「視聴率が少ない(低い)」という点は、最初に開局した局から11年も遅れて市場に参入したということが影響している。他局は、視聴率の「稼ぎ頭」となる特定のタレントや事務所に依存しているが、もともと視聴率が低いテレ東は高望みをしないため、特定のタレントや事務所に頼ることはない。 ドラマにおいても、事務所は高視聴率が期待できる他局のドラマ放送枠に「ベタ置き」をしたがるので、テレ東のことは眼中にない。しかし、そんなデメリットのなかからもメリットが生まれてきた。 それは、「やってみなはれ」の精神である。テレ東では、かつて「どうせ視聴率が低いんだから、思い切ってやってみたらどう?」という考え方があった。企画会議などで誰かが(それが入社すぐのADであっても)新しいアイデアをポロっと話すと、「じゃあ、それやってみたら?」という感じで決まることが多いのが、テレ東だ。 それに比べて、他局の大物タレントが出演する番組はどうだろう。 例えば、バラエティの場合は週に一度もしくは隔週のペースでネタ会議が開かれる。これはMCを務める本人が出席する場合もあるし、そうでないときでもタレントの「座つき」と言われるお抱えの構成作家が参加する。いわば、ブレーンで固められているというわけだ。そんな場の雰囲気で、末端のADが発言できるわけがない。大物タレント本人が言わずとも、「それはおもろないな」とか「ちゃうんちがう?」とか言って忖度した取り巻きに否定されるのがおちだ。 私が過去に演出を担当していたある番組でも、緊張した雰囲気で会議がおこなわれていたが、何か斬新なアイデアが出ると必ず「座つき」が「〇〇さん、それやらないと思うな」とか「それ、好きじゃないと思う」と言っていた。彼らはあとで怒られるのが怖いのだ。 そのたびに周りは「視聴者はそれが見たいんだっちゅうの!」「お前に聞いてないよ。本人が言ったんか!」と反論したいのをじっと我慢している。そんな委縮した空気が、今回問題になっている大物タレントや事務所のタレントが冠を張る番組内に漂っていなかったと誰が言えるだろうか。 ◆「失敗することは恥ずかしくもないし、当たり前」 テレ東は’22年3月に「若手映像グランプリ」という試みを始めた。これは、30歳以下のテレビ東京社員が「予算ひとり100万円」「15分以内」「ジャンル自由」というルールで映像を作り、〝地上波放送枠をかけて〟競うという企画だ。