目立つワンマンぶり “トランプ革命”読み解く今後の注目点は
1月20日の就任以来、「TPP離脱」「オバマケア見直し」など矢継ぎ早に大統領令を発しているトランプ米大統領。中でも「中東など7か国からの入国停止」に関する大統領令は、国民のデモや司法からの反発など米国に大きな混乱を引き起こしています。これまでの政策を大統領令で次々に「覆す」トランプ大統領の政治とは何なのか。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【写真】“トランプ革命”の始まりか 大統領選が持つ歴史的意義
「公約実現」アピールにはなるが
トランプ政権発足から2週間。大統領令を乱発している印象があるが、8年前のオバマ政権の同時期と比べて、件数がとりわけ多いわけではない。 最初の2週間を比べると、トランプ大統領が8件、オバマ大統領が9件となっている。ただ、「オバマケアの見直し」「メキシコとの国境壁建設」「難民や移民の制限」など世論を二分するような重要案件が続いており、政権発足早々、「米国の分裂」が際立つ格好になっている。 通常は選挙戦での対立を癒し、国民の融和を重視する見地から回避するアプローチだが、やはりトランプ大統領は違う。僅差の勝利だった選挙結果に鑑みても、本来ならば、ライバルの民主党からも1、2名入閣させ、和合を演出するものだが、今回はゼロ。米国の人口の18%を占めるヒスパニック(中南米系)の閣僚もゼロ。アジア系とアフリカ系も1人ずつ。実に7割以上が白人男性だ。大統領就任式の聴衆も白人の姿が多く、オバマ時代から時計の針が逆進した印象を受けた。まるで自らの支持者のみを代表しているかのようだ。 加えて、ワンマンぶりも目立つ。 例えば、「難民や移民の制限」に関する大統領令について、関係閣僚への事前周知はほとんどなかったようである。個人経営の企業ならいざ知らず、超大国の政策決定としてはリスクが余りに高すぎる。米国が「反イスラム」であるかのような印象が広がれば、反米主義が高まり、テロを誘発しかねない。加えて、昨今、米国内で起きているテロのほとんどは「ホーム・グロウンテロ」、すなわち米国で生まれ育った者によって企てられている。今回の大統領令はトランプ氏の支持者に「公約実現」のアピール材料になるかもしれないが、有権者が米国の最優先課題の一つと考える「テロ対策」において、どれほどの効力を有するかは疑問だ。