2度大会辞退を考えた県岐阜商が大敗も下級生でつかんだ希望の1点…ガッツポーズ控えた社のスポーツマンシップにもファン感動
新型コロナウイルスの集団感染と判断され、登録選手18人のうち10人を入れ替えた”古豪”県岐阜商は9日、甲子園球場で社(兵庫)との1回戦に臨み、1―10と大敗した。エース不在で背番号11の山口恵悟(2年)が先発し、マスクをかぶったのもキャリアの浅い1年生の加納朋季(1年)。社会人野球の松下電器(現・パナソニック)を率い、秀岳館では3季連続ベスト4に導いた“名将“鍛治舎巧監督(71)は、2度、辞退を考えたというが、高野連の特例措置にも救済され、メンバーを編成し直して、激戦区の兵庫を勝ち抜いた社に挑んだ。戦力差は明らかだったが、8回に下級生だけで奪った1点にファンは大きな拍手を送った。試合に出られなかった3年生の歯がゆさや、無念が交錯する中、県岐阜商の培ってきた練習量を示す来年につながる価値ある1点だった。
「野球にならないんじゃないか」
ベンチに腰をおろした鍛治舎監督は観念しているかのようだった。 エースの井上悠(3年)や2番手の小西彩翔(3年)がいない。岐阜県大会の決勝でサヨナラ本塁打を放った正捕手の村瀬海斗(3年)も不在だ。 この日の先発マウンドには、背番号11の2年生右腕の山口を送った。生まれつきの重度の難聴ながら補聴器をつけて投げる苦労人をリードしたのは1年生の加納である。 初回に1死三塁から相手の三番打者に右前適時打を許して1点を失うと、2回には制球が定まらず、2四球後に3連打を浴びるなどして3点を失い、鍛治舎監督は交代を決断したが、2番手の小林ももう1点失った。3回は守備の乱れもありさらに3失点。序盤で0-8の大差がつき、終わってみれば、繰り出した5投手が13安打されて1-10の大敗だった。 「今年の3年生は本当にコロナに翻弄された苦しい世代だった。しかし、本当なら出られなかったかもしれない中、こうして試合を戦うことができた。尽力してくださった関係者のみなさんに感謝したい」 試合後、鍛治舎監督は悔しさを押し殺し、出場できなかった3年生を慮ると、舞台を用意してくれたことへの謝意を述べた。 不運としか言いようがない。大会前のPCR検査では選手全員が「陰性」だった。意気揚々と甲子園に乗り込もうとしたところ、悪夢に見舞われたのは組み合わせ抽選が行われた3日の夜。複数の体調不良者が出たため、5日の開会式リハーサルを欠席。その後に集団感染が判明し、最終的には陽性者は14人まで広がった。 鍛治舎監督は「ここで、こういうことになるのが信じられない。非常に残念」と途方に暮れたが、責任を感じて涙を流して、嗚咽する選手に「君のせいではない」と励ました。 鍛治舎監督は、大会辞退を2度、考えたという。 「野球にならないんじゃないか」 だが、思いとどまったのは、陽性反応の出なかった3年生の存在だった。 「まだ残っている伊藤や河合の顔が浮かんで。彼らが頑張っているので自分から幕を引くわけにはいかないと、チームを編成して作り上げていこうと思い直しました」