2度大会辞退を考えた県岐阜商が大敗も下級生でつかんだ希望の1点…ガッツポーズ控えた社のスポーツマンシップにもファン感動
3年生は入学初年度に新型コロナ禍で夏の甲子園大会が中止になるなど、練習や活動を大きく制限されてきた世代。そして最後の最後に無情の結果が待ち受けていた。鍛治舎監督は出場できなかった選手にはメールでやりとりを重ね心のケアも忘れなかったという。 高野連の敏速な対応も後押しした。6日には集団感染と判断されたチームが、登録選手を入れ替え、出場できるようにガイドラインを改定した。「すべての代表校に試合をしてほしいという思い」からだったが、ファンの間からは、県岐阜商の日程を後にずらして新型コロナからの回復を待つべきではないか?などの声もあった。第7波の襲来で、全国の感染者数が爆発的に増大している状況にあり、こういう事態は十分に想定できた。過密日程で調整が難しいのは理解できるが、事前のリスク管理に問題は残った。 それでも鍛治舎監督は、「異例の対応に感謝申し上げたい。選手は天にも昇るような気持ちだと思う」と大会本部の選手ファーストの対応に感謝を示した。 この日のスタメン9人のうち3人が新たにベンチ入りした選手。1、2年生が7人、3年生はわずか2人という布陣とあっては、岐阜大会を勝ち抜いた力を望むのは酷だった。 もちろん、県岐阜商にとっては、この1回戦を勝ち進めば自宅で待機し、1回戦に出られなかった選手が戦列に復帰できる可能性があった。出場する選手たちのモチベーションもそこだった。 最後に鍛治舎監督は「3年生に申し訳ない。この試合を何とか勝ち切って、と思ったけど、申し訳ない気持ちでいっぱい」と語った。 だが、逆境をチャンスに変えようとした選手たちは、最後まで全力を出し切り必死で打球を追った。事情を知る観客からの拍手がひと際大きくなったのが、9点のビハインドで迎えた8回の攻撃だった。 先頭の高井咲来(2年)がレフトオーバーの二塁打で出塁すると、代打の磯野真夢(2年)の内野ゴロで三進。加納朋季(1年)の三ゴロの間に1点をスコアボードに刻んだのだ。下級生だけで奪った1点。そこには、県岐阜商野球の伝統と奥深さ、積み重ねてきた練習量と先輩たちの無念を受け止めたチームの絆があった。そして何より来年へつながる希望があった。 「急遽、メンバーに入った選手たちもよくヒットを打ってくれた。次の主力を張る選手たちがいい経験を積んでくれた。8四死球と4つのエラーは下級生たちが悔しいものとして持ち帰り、必ず、必ず次につなげてくれると思っています」と鍛治舎監督は、この1点が来年へとつながる希望の1点であったことを素直に口にした。 一方、兵庫代表の社ナインの姿もファンの感動を呼んだ。 相手チームを思いやり、派手なガッツポーズは封印し、笑顔も慎んだ。記念すべき夏初勝利を挙げた山本巧監督(50)は、試合後、「相手の状況は分かっているので複雑な思いで戦った。どこの学校も感染対策はしんどい思いで取り組んでいる。自宅待機している岐阜商さんの10人の選手の気持ちを察しました」と話した。 甲子園への切符をつかみながら、新型コロナ感染の悲劇で聖地の土を踏めなかった3年生に、来年ここに帰ってくるために最高の経験を積むことができた下級生。そして真摯に全力で戦い勝利をつかんだ社のメンバー。この2022年8月9日は、彼らの今後の人生において忘れられない1日になっただろう。