林真理子さん、佐々木蔵之介さん対談「京都はあらゆるテーマで旅ができる場所
「雅」も「魔界」も。何でもござれの街。
林 私は1980年代に、京都を舞台に展開する「京都まで」という恋愛短編小説を書きました。東京で働く30代の女性編集者が“京男”と恋に落ちる。この街だからこそ成り立つ世界や、生まれるドラマがあると思います。 佐々木 京都を描いた物語の舞台を見て回るのもいいですね。今回、大河ドラマの『光る君へ』で藤原宣孝役をやらせていただくにあたり、紫式部の邸宅跡の廬山寺(ろざんじ)とか、お墓にも初めて足を運んでみたんです。 林 式部の夫としての弔問ですね。 佐々木 ええ、そうです(笑)。藤原道長の邸宅趾も訪れました。「あ~道長さん、どうもどうも」という感じで。 林 『源氏物語』は壮大な物語ですけど、実際に描かれた場所を訪れると、その空気感なんかが伝わって、よりリアルに味わうことができますよね。 佐々木 はい。平安時代当時の建物などはもうなくても、空気感は土地にしっかり残っている気がします。 林 私も、源氏物語の「宇治十帖」を現代語訳で書いたときは、宇治を訪れました。宇治と京都はどんな距離感なんだろうと肌で感じに。「ああ、ここから都は遠いのね」って思い耽ると、主人公の心の距離が見えたりします。 佐々木 そうそう。今だったらあっという間の距離ですけど、平安時代はどれだけ寂しく感じられただろうと思い馳せられる。その場所に行くことで、物語の中の世界を体感できますね。 林 下京区の風俗博物館に行ったこともあります。源氏物語の世界を再現した場所で、十二単も実際に着せてもらいました。「脱がせるときはどうするんだろう」って、想像をかき立てられたり……。博物館の方は「渡辺淳一先生も、全く同じことをおっしゃっていました」って(笑)。 佐々木 作家さんならではですね。平安時代は雅なイメージが強いですが、今回の大河ドラマは脚本の大石静先生が「セックス&バイオレンス」がテーマと言われていますし、はんなり、だけでない部分も多々あります。京都の街も同じです。上品で高貴なだけでなく、“魔物”的な世界も共存している。下町っぽいところも見どころですね。