トライトンはゴツいだけじゃない!三菱らしさを凝縮したデザインとは?【カーオブザイヤー車のデザイン探訪】
第45回 日本カー・オブ・ザ・イヤー 2024–2025のデザイン部門賞は昨年に続き三菱が獲得した。お家芸である4WDマシンを、武骨ながら新しいライフスタイルを想起させる造形としたことが授賞につながった。ダイナミックシールドを採用した大胆なフロントフェイスと、バランスの難しいダブルキャブのプロポーションをデザインジャーナリストの千葉匠はどう評価するのか? 【写真】ただゴツいだけではない!トライトンのデザイン解説 TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:MITUBISHI/CAR OF THE YEAR JAPAN 初代~2代目は乗用車指向だった これで3代目のトライトン。初代を振り返ると、デザインはまさに隔世の感だ。2005年にタイで発売された初代トライトンは、翌06年に国内導入。ピックアップらしからぬスタイリッシュな姿に驚いた覚えがあ フロントバンパーは完全なボディ一体型で、ボンネットからグリルを経てバンパーまで滑らかに面が連続。Aピラーからルーフへも滑らかなカーブでつなぐ。ボディサイド断面も丸く、その丸みが荷台まで続く。それまでのピックアップの常識だったボクシーなフォルムとは、完全に一線を画していた。 言い換えれば、初代のデザインは乗用車指向だったのだ。背景には、生産国であり主戦場でもあるタイの自動車市場の変化があったのだろう。タイでは70年代から日本メーカーが現地生産するピックアップが、農作業から人員輸送までマルチに活躍していた。96年にホンダの取材で初めてタイを訪れたとき、バンコク市内で荷台に人を満載したピックアップを見て驚いたものだ。 しかし96年にホンダやトヨタからお手頃で品質の高い小型セダンが登場すると---97~98年の景気低迷でその船出は順調ではなかったが---人々の関心が乗用車に向き始めた。乗用車需要が拡大するなか、ピックアップのデザインに乗用車のテイストを持ち込むのは当然ありえる作戦だ。 2代目=先代は2015年に発売(日本には未導入)。キャブ骨格の多くを初代から受け継いだので、少し力強さを増したとはいえ、乗用車指向がまだ色濃かった。しかし3年後に軌道修正することになる。 先代2019年モデルが新型の伏線 先代は2019年型でフェイスリフトを実施し、「ダイナミックシールド」を採用するなどデザインを大きく変更。2015年の先代アウトランダーから始まった三菱の新しいフロント・アイデンティティに揃えたわけだが、アウトランダーより顔が分厚くて逞しい。 そのコンセプトは「ロック・ソリッド(岩のように硬い)」。三菱の公式YouTubeで、当時の國本恒博常務デザイン本部長がその意図を「働くクルマとして力強く、堅牢で、頼りになる相棒となるようなデザインを目指した」と説明している。SUVとはいえあくまで乗用車のアウトランダーとは、使われ方が違うからダイナミックシールドの表現も異なる。今にして思えば、これが新型トライトンの伏線だった。 今回の新型トライトンはプラットフォームから新開発。キャブも骨格から新しくできるとなって、デザインコンセプトは「ビーストモード、勇猛果敢」。ビースト=野獣とは穏やかでないが、先代2019年モデルの力強さや堅牢さをさらに進化させるには、それくらい強い言葉が必要だったのだろう。 ロバストなダイナミックシールド 新型のダイナミックシールドについて、プログラムデザインダイレクターとしてデザイン開発をリードした吉峰典彦氏は「史上最もロバスト(屈強)なデザイン」と告げる。「史上最も」は事実上、「2019年モデルよりも」ということだ。比較すると、新型の進化がわかりやすい。 高性能感を示唆する大きなグリルとプロテクト感を醸し出すコーナー部をグリルモールで区切る、というのがダイナミックシールドの基本構成。2019年モデルはボンネット前端の高さを上げて顔の厚みを増やすと共に、グリルモールを垂直に下ろしたことが特徴だった。 先代アウトランダーやエクリプスクロスはグリルモールを斜めに下げ、左右でハの字を描く。垂直のグリルモールを採用したのは、トライトンの2019年モデルが初めてだ。先代トライトンとフレームを共用してタイで生産するSUVのパジェロスポーツも、2015年登場の3代目でダイナミックシールドを採用したが、グリルモールはハの字だ。 ハの字の踏ん張り感はキビキビとした走りのイメージにつながる一方、ロバストさを表現したいときには重力に対抗する垂直線が大事になる。オフロード指向SUVの多くが、フロント/リヤに垂直線を基調としたデザインを採用するのはそのためだ。重たい荷物を積み、新興国では悪路も走ることもあるピックアップとなれば、垂直線はより重要な意味を持つ。 新型も当然、グリルモールは垂直だ。グリル開口やランプ、グリルモールの横線部分などを水平基調に整えたので、水平線と垂直線がガッチリと組み合わさって、まさにロバストな表情。さらに、アッパーグリルとヘッドランプ(もしくはDRL)を連続させる従来のダイナミックシールドの流儀から抜け出し、ひとつの大きなグリルを構えることで、顔の厚み感がストレートに伝わるようになった。 二つの流れで構成したサイドビュー 迫力ある顔付きに目を奪われがちな新型トライトンだが、サイドビューも見所だ。二つの大きな流れで構成されている。ひとつはフロントフェンダーから下降して、張り出したドア下部につながる流れ。そこから上のドア面はリヤドアの途中で少し膨らみながら荷台側面へと流れていく。 二つの流れの境界線を凹の溝にしたのは、目立つ処理ではないが、デザイナーのこだわりを感じさせるところだ。凹でラインを強調したおかげで、流れが見る人に伝わりやすくなっている。 台形のホイールアーチはSUVでよく見る処理。先代2019年モデルのときにラフロードで使われることを考え、円弧型から台形基調(丸みを帯びた台形)に変更していたが、新型は台形感をより強めた。 それに合わせてフロントフェンダーのキャラクターラインも、リヤドアから荷台へ延びるキャラクターラインも水平基調。ちなみに前後に分けて水平のキャラクターラインを走らせるのは、フェイスリフト前の先代から一貫しており、もはやトライトンのアイデンティティと言ってもよいかもしれない。 ヤマブキオレンジメタリックは専用新色 ボディカラーではヤマブキオレンジメタリックが新型トライトンのために開発された新色。宣伝等でこれを前面に押し出しているので「トライトンと言えばオレンジ」のイメージだが、これは上級GSRグレードの専用色だ。カタログにはGSRがヤマブキオレンジメタリック、GLSがグラファイトグレーメタリックで掲載されている。 GSRはグリルモールやオーバーフェンダーなどがブラックになる。それを前提に、ブラックとのコントラストを重視して開発したのがヤマブキオレンジメタリックだ。そのためデリカミニ/eKクロスのサンシャインオレンジより少し黄色よりのオレンジが選ばれた。メタリックとマイカを併用しつつ、どちらもオレンジに着色するという凝った塗料を使い、オレンジの発色性を高めたのも特徴だ。 グラファイトグレーはアウトランダーやデリカD:5ですでにお馴染みの色。メタリックの粒子が通常の1.5倍と大きく、ギラッと力強く輝く。12月中旬の情報では、発売以来の色別シェアはホワイトダイヤモンドが31%でトップながら、これにヤマブキオレンジが24.5%、グラファイトグレーが22%と続く。オレンジ系は20%を超えるのは異例で、デザイナーのこだわりがファンに共感された証拠と言ってよいだろう。
千葉 匠