「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」…安価な輸入品の追い出し、自らの首を絞める可能性も
トランプ復権<4>
「200でも500でも構わない。彼らが1台も売れないような数字を出すつもりだ」
トランプ次期大統領は米大統領選のさなかの10月中旬、メキシコからの輸入車に200%以上の関税を課す可能性を示唆した。米国と地続きで、人件費が安いメキシコには、多くの自動車メーカーが生産拠点を置く。トランプ氏は関税の高い壁を築き、メキシコからの輸出を締め出す狙いだ。
日系メーカーも人ごとではない。メキシコで年間約20万台生産した自動車の8割を米国に輸出するホンダの青山真二副社長は6日の決算記者会見で「関税の対象になれば、事業に与える影響は非常に大きい」と述べ、米国内などに生産拠点を移す可能性に言及した。
「私は関税の信奉者だ。私にとって、辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」とうそぶくトランプ氏は、高い関税をかけて安価な輸入品を米国から追い出すことが、国内製造業の保護や強化につながると信じて疑わない。大統領就任後は、全ての輸入品に一律10~20%の関税をかける方針だ。
米調査機関「タックス・ファンデーション」は、トランプ関税が実現すれば、全輸入品に対する平均関税率(現在は2・4%)が、7倍超の17・7%に急上昇すると推定する。米国が大恐慌に襲われた1930年、フーバー政権が国内産業の保護を目指して制定した関税法「スムート・ホーリー法」以来の水準だ。
だがトランプ氏の政策は、米国経済を強くするどころか、バイデン政権期を超えるインフレをもたらす恐れもある。
輸入品に高い関税をかければ消費者は米国製品を選ぶ、というのがトランプ氏の考え方だ。だが、代わりになる米国製品がなければ、消費者は輸入品を購入せざるを得ない。例えば、自動車生産に必要な部品の多くは日本、メキシコ、韓国からの輸入だ。スマートフォンやパソコンに不可欠なレアアース(希土類)は中国からの輸入依存度が高く、米国内での代替は困難だ。
引き上げられた関税分は国内での販売価格に転嫁され、米国の消費者が支払うことになる。米ピーターソン国際経済研究所は、標準的な家庭で年2600ドル(約40万円)以上の負担増になると試算する。