植物由来の“マグロの赤身”!? 魚の刺し身の代替食品に注目:味や見た目そっくり、SDGsへの貢献も
川本 大吾
カニカマや人工イクラなど、これまでも魚介の代替食品はいくつかあったが、最近注目を集めているのがプラントベース(植物由来)の「刺し身」。味も見た目もクオリティーが高い上に、インバウンドに多いヴィーガン対応や、水産資源の持続可能な利用にも一役買ってくれそうだ。
マグロの匂いと食感を再現-日本ハム
一見すると、酒のつまみにぴったりなマグロの赤身。近くでよく見れば違和感があるものの、大根のツマや大葉、わさびなどが添えてあると、本物と見間違えてしまう。その正体は、こんにゃく粉と食物繊維を原料とする「魚の刺し身」の代替食品だ。 開発を担当した日本ハムの渡部賢一さんは「マグロ特有の鉄分を含んだ香りと、食感にこだわり、わさびやしょうゆとの相性も重視した」と説明。実際に食べてみると、マグロの風味が口の中に広がり、程よい弾力としっとり感がある。食感に関しては「舌触りや口の中での溶け具合には苦労した」と振り返り、硬くすればこんにゃく感が強まり、軟らかくし過ぎるとボロボロに崩れてしまったという。 まずは業務用として4月から販売し、需要を探りながら徐々に普及させていく狙いで、すでにホテルのレストランや外食チェーンから「メニューに取り入れたい」と引き合いがある。冷凍食品なので1年間の保存が可能で、飲食店にとっては扱いやすい食材だろう。
水産資源の持続可能な利用に貢献
大手食肉加工会社が魚の代替食品を手掛けた理由には、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献がある。海外での和食ブームや健康志向の高まりを背景に、世界の漁業生産はおおむね増加傾向だが、天然魚の水揚げ量は頭打ち。国連食糧農業機関(FAO)のまとめによれば、持続可能なレベルで漁獲されている水産資源の割合は1974年の90パーセントから、2019年には65パーセントまで低下。いまや水産資源の3分の1以上が乱獲されている状態なのだ。 一方、国内ではサンマやサケ、スルメイカといった主要魚種の不漁が深刻化。漁業生産量は過去最低記録を更新し続けている。そうした中、SDGsへの関心が高まったことで、食肉に続き、魚の代替食品の開発が注目され始めた。 日本ハムは肉の代替食品を開発する一方で、23年からプラントベースの水産物にも着手。まずは需要が高いマグロの刺し身に挑戦し、水産資源の保護につなげようと考えた。そして半年間の試行錯誤を経て、商品化にこぎ着けたという。同社の広報担当者は「SDGsに関心がある人や、食中毒や水銀を気にして魚が食べられない妊婦の方などのためにも、食事の選択肢を増やしていきたい」と意気込む。すでにマグロ以外の魚の代替食品も開発を進めているようなので、不漁が続くイカやサンマの刺し身の登場を期待したい。