指揮官“怒りのインタビュー”が呼んだ共感。「不条理な5連戦」でWEリーグ・新潟が示した執念と理念
ナイターの後のバス移動で帰宅は深夜に
新潟は5連戦のラスト2試合が中2日のアウェーで浦和、相模原と続いたため、移動の負担を減らすため、栃木で調整して30日のN相模原戦に臨んだ。宿泊費などで費用はかさむが、背に腹は変えられなかった。 上尾野辺めぐみは「上位にいくために選手やスタッフだけでなく、フロントも考えてくれて、(新潟に帰らず)関東に残してもらえました。だからこそ、自分たちが結果を出さなければいけないという思いがありました」と明かす。 それでも、連戦で溜まった疲労はピークに達していた。キャプテンの川澄奈穂美が「全体的に重さがあった」と振り返るように、前半はN相模原に押し込まれる時間が長かった。それでも、今季掲げてきた「堅守柔攻」を徹底し、GK平尾知佳を中心に相手のクロス攻撃をシャットアウト。57分、相手の最終ラインの連係ミスを見逃さなかった川澄のループシュートが決勝点となった。 試合後、選手たちの表情には安堵の色がにじんでいた。ただし、試合はナイターだったため、勝利の余韻に浸る間もなく、チームは20時半すぎにスタジアムを出発。新潟に戻る頃には深夜0時を過ぎていたはずだ。 「5試合連続で、もうボロボロですよ。戦術どうこうではなく、それをやってくれた選手たちは素晴らしいし、この状況をマネジメントしたスタッフにも感謝したい。相手の分析、セットプレー(の分析)、コンディション(管理)、洗濯を夜遅くまで行って帰ってきて、少ない人数で回してくれて……本当に、よくやってくれたなと思います」 記者会見で、言葉を途切れさせながら語った橋川監督の目には光るものがあった。
クラブ、選手の負担見直す必要性も
J1では、全クラブへの均等配分金として2.5億円、そのほかに、順位や人気によって変動する理念配分金を用意している。一方、女子のトップリーグであるWEリーグは、均等配分金が4000万円。各クラブがWEリーグに収める年会費2000万円(J1は4000万円)を差し引けば、実質2000万円しか残らない。リーグ運営の原資となる放映権料やスポンサー料が増えなければ、その影響は各クラブに及ぶ。 各クラブは、限られた予算の中でリーグが定める選手の最低年俸(年俸270万円のプロ契約選手を15人以上、うち5人以上が年俸460万円以上のA契約)を準備する必要があり、少数精鋭で戦っているチームも少なくない。 橋川監督によると「ターンオーバーできるほどの選手層はありません。新加入選手が5人加わってようやく紅白戦ができるようになったぐらいです」という。人数が少なければ、連戦の負担も大きくなる。 WEリーグの年間試合数は30試合前後だが、欧州の女子強豪クラブの中には50試合以上を戦っているクラブもあり、過密日程によって増えているケガの多さが深刻な問題になっている。興行として成り立たせるためにある程度の試合数を確保していく必要はあるものの、リーグとクラブのコンセンサスや、そのための環境整備が不可欠だと感じる。 WEリーグも、今回の過密日程の件に限らず、運営面ではクラブや現場の声が反映されていない部分が多いように感じる。 新潟の山本英明社長は、N相模原戦後に自身のXで「WEリーグは公益社団(法人)なので、構成員である社員=クラブ(選手チーム)にもっと寄り添い、公平公正に向き合えると未来は明るくなると考えます」と発信した。 新潟は冬場は雪の影響で練習場が使えない時期も長く、WEリーグが発足して秋春制になってからは練習場の確保にも苦労してきた。環境改善に向けては、現役のプロサッカー選手として初めてJFA理事になった川澄奈穂美を筆頭に、選手も発信しているが、現状変化はない。 WEリーグは、「Women Empowerment(女性のエンパワーメント)」というキーワードが象徴する社会理念の浸透に力を入れてきた。一方で、競技面や運営面の未解決課題は多く、対応も遅れがちだ。試合後の会見中、橋川監督は「(女子)選手たちが輝くことが一番の理念じゃないですか」と、アスリートファーストの原点に立ち戻る必要性を訴えた。