不登校とうつ病の関連性【専門クリニックから見た最前線】
◇不登校とうつ病の関連性
不登校の主要因として挙げられる「無気力、不安」の背景には、しばしばうつ病が潜んでいます。実際、不登校児童生徒の中にうつ病を抱える割合は一般的に考えられているよりも高い可能性があります。これは、日本国内外の複数の研究によって裏付けられます。 例えば、国立国際医療研究センター国府台病院の研究では、不登校を主訴として来院した児童生徒の36.4%がうつ病性障害と診断されています[3]。 さらに、インドのAsha病院で行われたKarthikaとDeviの研究でも同様の傾向が見られました。この研究では、不登校を主訴として来院した児童の91%が評価時に精神障害と診断され、そのうち36.4%がうつ病性障害と診断されています[4]。これは日本の研究結果とほぼ一致しており、不登校とうつ病の関連性が文化や地域を超えて普遍的である可能性を示唆しています。 また、米国の研究では、不登校児童生徒の約30~50%が不安障害やうつ病を含む情緒障害を有しているという報告があります[5]。 筆者の出雲いいじまクリニックのデータでも、受診した不登校児童生徒の98.5%に発達障害を含む何らかの精神疾患が見られ、そのうち33.1%がうつ病と診断されており、上記の複数研究とほぼ同様の結果です[2]。 子どものうつ病は、大人とは異なる症状を示すことがむしろ普通です。特に児童期では、易怒(いど)性(かんしゃく発作、言うことを聞かないなどの行動)や気分の反応性(楽しい出来事があると一時的に元気になる)、不安や行動の問題、不注意、衝動的行為などが多く見られます[6]。思春期・青年期になると、易怒性(不機嫌、敵意、イライラしやすい、怒りの爆発)や過眠傾向、食欲増加と体重増加などの症状が表れやすくなります。 これらの症状は、学校生活に大きな影響を及ぼします。例として、 1. 集中力の低下や意欲の減退により、学業成績が低下する 2. イライラや怒りの爆発により、対人関係が悪化する 3. 身体症状(頭痛、腹痛など)を訴え、登校を渋るようになる 4. 睡眠リズムの乱れにより、朝起きられなくなる こうしたうつ病の症状が直接的に不登校のきっかけとなったり、不登校状態を長引かせたりする要因となっていることは十分に考えられることでしょう。 さらに、不登校とうつ病は悪循環に陥りやすい関係にあります。Finningらによるフィンランドの長期追跡調査では、不登校とうつ病の間に双方向の関係があることが示されています[7]。つまり、不登校がうつ病のリスクを高める一方で、うつ病も不登校のリスクを高めるという結果が得られています。 不登校によって学校から離れることで社会的孤立が進み、それがうつ病の症状を悪化させる。うつ病の症状が悪化すればするほど、学校に戻ることがさらに困難になる。このような悪循環が不登校の長期化につながっている傾向が指摘できます。 従って、不登校児童生徒に対応する際には、単に「学校に行きたがらない」という表面的な現象だけでなく、その背景にうつ病などの精神疾患が潜んでいないかを慎重に見極める必要があります。適切な診断と治療によって、うつ病を早期発見し改善することができれば、問題解決にもつながるケースも多いと考えられます。(了)