両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.34
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
ビレイハウス訪問
2013年12月、千葉の里山で田舎暮らしをしていた山本に、本間館長から国際電話が入った。 「山本さん、来年2月にネパールとタイに出張に行くんだけど、一緒に行かないかい?」 山本はふたつ返事でOKした。本間館長に同行しての海外行脚は初めてである。彼の「無刃取りの旅」の実態を知る絶好のチャンスであった。 最初のネパールでは、レンジャー部隊のカトマンズ訓練キャンプ場に新設された大合気道道場の開所式に出席し、その後タイのビレイハウスを訪問するというスケジュールだった。 ネパールでの行事を終えた本間一行はタイへ向かった。バンコクで一泊し、翌朝亜範タイ事務所スタッフの運転するトラックで、タイ西部ミャンマー国境近くのタコラン村までの未舗装の悪路を、4時間程揺られながら行った。 当時、ビレイハウスには男女小中学生14人の子供たちが生活していた。彼らの大歓迎を受けた後、ビレイ牧師の案内で森の中に出来上がった寄宿舎やチャペル、そして伝統工芸継承センターなどを見学した。 伝統工芸継承センターとは、カレン族の伝統工芸の織物や竹細工などを製作する作業場である。カレン族の伝統工芸を若い世代に継承させるためであり、更にはその織物はいずれ“カレン族伝統工芸”として観光客の目に留まることになるとの、本間館長のアドバイスで作られた工房だ。ビレイ牧師の奥さんが子供たちに教えていた。