美輪明宏 「ちょうちょう」はかつて「てふてふ」だった。時にはレトロで優雅な日本語に触れてみて
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 6月号の書は「てふてふ」です。 【美輪さんの書】軽やかな「てふてふ」 * * * * * * * ◆「てふてふ」はとても軽やか 童謡の「ちょうちょう」は、みなさんよくご存じですね。小さいころに歌った人も多いのではないでしょうか。明治時代に『小学唱歌集』に掲載されたそうですから、ずいぶん前から歌われていたことになります。 私の子供時代は、「ちょうちょう」は「てふてふ」と書かれていました。現代の仮名遣いで書くと、なんだかベタッと糊がついているような気がしますが、「てふてふ」はとても軽やかです。字そのものが、まるで蝶がひらひら飛んでいるようです。 旧仮名遣いが今の仮名遣いに切り替わったのは、戦後間もない昭和21年。なんでもアメリカ政府から日本に派遣された教育使節団の勧告もあって、政府が表記の簡易化を決定した、と聞いています。言ってみれば外圧も影響して、それまでの伝統を捨てて、現代仮名遣いになったのです。
◆移り変わる言葉の響きを楽しんで 時代とともに言葉が移り変わるのは、致し方ないことです。ただ、仮名遣いが変わったことで多くの日本人が古典文学に馴染みが薄くなったとしたら、なんとも残念なことです。 たまに旧仮名遣いの本を読むと、なんと優雅で美しいのだろうと思います。とくに毛筆で、水茎(みずくき)の跡も麗しく書かれた書などを見ると、いにしえの仮名遣いは日本の大事な文化だったと思わずにはいられません。 私も普段はもちろん、現代仮名遣いで文章を書きます。でもたまに、今回の書のように、なぐさみに「てふてふ」と書いてみたくなるのです。みなさんも機会があれば、古い本の復刻版などをパラパラとめくって、レトロで優雅な日本語に触れてみてはいかがでしょう。 ●今月の書「てふてふ」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏