北京でも「小学生切りつけ」事件が発生 5カ月で「児童殺傷5件」“子どもと女性と日本人”が狙われる「中国治安」の闇
中国経済の停滞が逮捕者急増の原因
このような逮捕者の急増の背景には、今年に入って、不動産市況の不調を中心とした、中国経済の不振がある。不動産はこれまで中国経済のけん引役であり、不動産開発の進行や住宅の好調な売れ行きが建材や家具・家電などさまざまな分野に波及効果を与えてきた。しかし、この不動産市況が不調に陥ったことによって、失業者も増加。それに比例して犯罪も急増した。 中国では刑務所に服役して出所しても、就職難の現在、すぐに職に就くのは至難の業だ。このため、出所者が毎日の食事にも事欠くような状況が続くと、なかには自暴自棄に陥り、社会を恨み犯罪に走る者もでてくるということは、冒頭の深センや広州、寧波などの犯人が犯罪歴を持っていることでも分かる。特に、狙われるのは女性や子供で、その犯行現場は幼稚園や保育園、小学校などの学校であることはこれまでの犯人像からもはっきりとしている。
根強い反日感情
そのなかでも特異なのが、深センの事例でも分かるように、日本人を狙った犯行だろう。中国の交流サイト(SNS)上では、「日本人学校は治外法権の中で対中工作のスパイが養成されている」などという悪意や偏見に満ちたデマを主題とした、何百本という膨大な数の動画であふれている。中国では抗日戦争によって多くの自国民が犠牲になっており、いまだに対日感情は良いとは言えない。 特に、1989年に江沢民氏が中国共産党総書記に就任して以降、「愛国主義」という名のもとに「反日教育」が強化されてきた。これは現在の習近平政権でも継続され、「中国の夢」の実現というスローガンによって、愛国主義教育が大きな政治運動化している。 最近では北京の観光地「円明園」で中国人インフルエンサーや警備員が日本人観光客に「日本人は立ち入り禁止だ」などと難癖をつけて、追いかけ回すなどし、身の危険を感じた日本人観光客が彼らを振り切って逃げかえるという事件が起きている。 また、中国で粉ミルク製品のシェアナンバー1企業「飛鶴(フェイフー)」が日本の「協和発酵バイオ」と相互技術協力の意向書に署名し、「発酵ラクトフェリン」製造技術を共同開発する研究所の設立を発表したところ、中国のSNSでは「日本企業との提携などけしからん」「もう飛鶴の製品は買わない」などとのクレームが巻き起こり、「飛鶴が日本企業から出資を受けた」というデマが飛び交っている。また、日本の福島原発処理水の海洋放出と関連付けて「飛鶴が日本から原料を輸入している」「核汚染水が原料に使われる」などと主張し、消費者の恐怖心を煽る動きもでている。さらには「日本人に善意はない」「子供の健康を日本人の手に任せるな」といった批判が相次ぎ、飛鶴製品をボイコットする呼びかけも広がっている。 これらの例は一部の極端なものともいえるが、中国の民衆のなかには、反日教育の影響から「日本人=侵略者=悪」などとの思い込みがないとは限らず、さきの日本人児童殺傷事件にみられるように、今後、何らかの形で、反日感情が表面化する可能性も否定できないだろう。 相馬勝(そうま・まさる) 1956年生まれ。東京外国語大学中国語科卒。産経新聞社に入社後は主に外信部で中国報道に携わり、香港支局長も務めた。2010年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『習近平の「反日」作戦』『中国共産党に消された人々』(第8回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞)など。 デイリー新潮編集部
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