こけしが倒れたら「震度4」 老舗こけし店の実験で判明
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こけしが倒れる地震は「震度4」── 宮城県の老舗こけし店の実験で、こけしの転倒する震度が証明されていたことが分かった。 1892年創業の老舗こけし店「こけしのしまぬき」(仙台市青葉区)は、2008年の岩手・宮城内陸地震を受け、翌年に防災商品の開発のため、こけしがどの程度の地震で倒れるのかを実験した。
防災商品のためとあって消防署の地震体験車を借りることができ、車内にこけし5本を設置した状態で、震度1から車体を揺らして実験を開始。「震度1か2で倒れる」と予想していた消防署員たちが見守る中、震度2、震度3、と段階的に揺れを大きくしていったが倒れず、いずれも震度4で倒れたという。 東北6県には全11種類の伝統こけしがあるが、実験で使用したこけしは仙台市の「作並系こけし」。島貫昭彦社長(58)の経験によるとその他のこけしも震度4程度の地震で倒れるが、鳴子温泉(宮城県大崎市)のお土産として知られる「鳴子系こけし」だけは抜群の安定感があり、震度5程度の地震で初めて倒れるという。 同店がこの実験結果をもとに開発したのが、防災用のこけし「明かりこけし」だ。地震でこけしが倒れると、こけしに内蔵されたLEDライトの明かりが点いて懐中電灯に早変わりするユニークな商品。実験でこけしが倒れると判明した「震度4」はちょうど人が恐怖を感じ始める震度といい、傾けると自動点灯するLEDライトの技術と「こけし」を組み合わせることで、「怖い」と感じたときに明かりが点く仕組みになる。最新技術と伝統工芸との相性はぴったりだった。 2011年の東日本大震災では被災地で長期間の停電が起き、客から「家にあって助かった」との声が寄せられたという。今年4月からは東日本大震災を教訓に、数日間にわたる停電にも対応できるよう、内蔵のLEDライトの持続時間を7・5時間から50時間まで伸ばし、明るさも1・5倍に変えた。 三陸沖地震など、もともと地震が多い東北地方。東北名産のお土産として知られるこけしだが、「こけし職人の間では、地震が来るたび『これでまた売れなくなる』と言われていた」(島貫社長)。大きな地震の後は客から「こけしは地震で倒れるから…」と敬遠され、店頭の売り上げが落ちていたという。そんなこけしの性質を逆手に取ったこの商品は、これまでに売り上げ1千本を突破。こけしの売り上げが落ちている中、高価格のこけしがここまで売れるのは珍しいことだという。 「明かりこけし」には、伝統こけしタイプと創作こけしタイプの計8種類がある。伝統こけしは作並系や鳴子系のほか、弥治郎系(宮城)、土湯系(福島)、遠刈田系(宮城)も。税抜き価格は伝統こけしタイプが7800円、創作こけしタイプが1万8千~2万円。 可愛らしい置物として古くから家の中に飾られてきたこけしだが、災害時に大活躍する意外な一面が今後、新たな注目を浴びるかもしれない。