小惑星「リュウグウ」の砂粒に塩の結晶–隕石では見つからず、全くの予想外
日本の探査機「はやぶさ2」が試料(サンプル)を回収した小惑星「リュウグウ」の砂粒から微少な塩の結晶が発見された。リュウグウの母体となる天体を満たした塩水が蒸発や凍結で失われたことを示しているという。研究の成果は日本時間11月19日に国際科学誌「Nature Astronomy」に掲載された。 研究グループは、リュウグウの表面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観察して、表面に小さな白い鉱脈が発達していることを発見。鉱脈を形作る鉱物を、ナノメートルに及ぶ小さな構造を観察できる透過型電子顕微鏡で観察すると、ナトリウム炭酸塩(Na2CO3)や岩塩(塩化ナトリウム、NaCl)の結晶、ナトリウム硫酸塩(Na2SO4)がその成分であることが分かった。 現在のリュウグウは900m程度の大きさだが、かつては数十キロメートルの大きさで母体となった天体(母天体)は、太陽系の始まった約45億年前に存在したと推定されている。母天体の内部は、放射性元素の崩壊熱で温められ、100度以下のお湯で満たされていたと考えられている。 リュウグウの母天体を流れていた液体は塩水であることが、リュウグウの砂から熱水に抽出した成分がナトリウムや塩素などを含んでいたことから推定されていた。見つかった塩の結晶も母天体の塩水の中で沈殿していたと考えることができる。 発見された鉱物はいずれも水に非常に溶けやすい性質を持つ塩の結晶。水に溶けやすいということは、液体が極めて少なく塩分濃度が高くなければ、結晶が析出できなかったと予想されている。 そのため、研究グループはリュウグウの砂を作る、多くの鉱物が母天体で沈殿した後に、液体の水が失われる現象が存在し、その際に塩の結晶が沈殿したと考えた。 液体がなくなる現象として考えられる可能性の一つは塩水の蒸発。 母天体の内部から表層の宇宙空間にまでつながる割れ目ができれば、天体内部の液体は減圧されて蒸発すると考えられる。 地球上の大陸内部に取り残された湖が干上がったときに高い濃度の塩水が生じ、ナトリウム炭酸塩や岩塩などが析出することはよく知られている。これらは「蒸発岩」と呼ばれており、リュウグウの母天体でも蒸発岩が生まれたのかもしれないという。 液体がなくなる現象として考えられる、もう一つの可能性は、液体の凍結。 母天体を温めていた放射性元素が乏しくなると天体は冷えていき、塩水は徐々に凍結するはず。塩水に溶けた陽イオンや陰イオンは氷には取り込まれにくいために、凍結が進むと塩水の濃度が高くなる。このため、濃い塩水からは塩の結晶が析出される。凍結した水はやがて現在に至るまでに宇宙空間に昇華してしまったと考えることができる。 現在のリュウグウに大量の液体は見られず、リュウグウの砂粒もぬれていることはなく、母天体を流れたはずの液体がどのように失われたか、分かっていなかった。今回の研究からリュウグウの母天体では、蒸発もしくは凍結で液体が失われる現象が起こったことが初めて判明したという。 リュウグウの砂で見つかったナトリウム炭酸塩は、地球に飛来する隕石では見つかっておらず、小惑星の砂から発見されたことは全くの予想外としている。 準惑星「セレス」や木星の衛星「エウロパ」、土星の衛星「エンケラドス」など地下に海が広がっていると予想される天体で塩が検出されている。 例えば、セレスには内部海の物質が凍って吹き出す氷火山があり、ナトリウム炭酸塩は噴出物の主要な成分。エンケラドスの表層の氷の裂け目から噴き出す間欠泉にはナトリウム炭酸塩や塩化ナトリウムが含まれている。 今回見つかった塩の結晶は、リュウグウと太陽系の海洋天体との水環境の共通性や違いを比較できる、新しい手掛かりになると期待できると説明。太陽系の水環境に注目することは、生命の材料である有機物の水中での化学反応を理解することにもつながるとしている。
UchuBizスタッフ