台風10号 収穫前…対策急ぐ産地 九州上陸、四国に再上陸へ
「一番激しい風雨だった」
29日朝に非常に強い勢力で鹿児島県から上陸した台風10号は、同県、熊本県、大分県へと進み、30日にも愛媛県から四国に再上陸する見通しだ。進路周辺では、収穫期を迎えた産地が多く、命を守る行動を優先しながら、作物の被害に心を砕く。「無事であってほしい」。切なる思いで台風の早期通過を願う。 「これまで知っている台風の中で一番激しい風雨だったと思う」。上陸地点の鹿児島県薩摩川内市に住むJA鹿児島県中央会の小田原海永さん(25)が29日、電話取材に語った。気象庁の観測では、同市で同日朝、最大22メートル以上の暴風が吹き、1時間に50ミリ近い大雨が降った。小田原さんはその数時間前、激しい雨風の音で目が覚めた。 停電や断水を予想し、自宅の風呂に水をためるなどしていた。「これほどしっかり事前の対策を図ったのは初めて」と言った。 宮崎市では29日朝、23メートルを超える暴風を観測。突風も複数回発生し、負傷者や家屋の損壊が相次いでいる。JAを含め宮崎県内の多くの企業・団体が在宅勤務や自宅待機に切り替えた。 「毎年のように台風が来る地域だが、今回は桁違い。ハウスの損壊など被害情報も届いている」。県内のJA関係者は生産者の安全を祈るように言った。 予想進路付近にある大分市のJA大分中央会も29日、若手を中心に自宅待機にした。 (田中賢司)
事前防除、ネット覆う
四国でも被害を最小限にするため、早めの対策が進められた。 30日朝にも暴風域に入る愛媛県宇和島市のJAえひめ南は、風雨でかんきつの樹体に傷がつき、かいよう病の感染が広がらないよう事前の防除を呼びかけた。同市でかんきつを生産する平石吉三郎さん(75)は、台風に備え、数日前からドローンを使った防除を実施してきたという。 平石さんは「今回の台風は進路が読めず、どこまで対策すればいいのか分からないが、やれることはやった。あとは祈るだけ」と語り、手を合わせた。 施設園芸が盛んな高知県では、多くの農家がピーマンやナスなど定植を終えたばかり。須崎市の青果卸・須崎青果の担当者は「ハウスが破れれば水分が抜け、葉が枯れる可能性もある。多くの農家が(ハウスを)ネットで覆った」と言った。 特産のスダチの出荷がピークを迎えている徳島県神山町のJA徳島県鬼籠野選果場は、四国と本州を結ぶ橋が通行止めになる可能性から、生産者には極力出荷を控えるよう呼びかけた。 JAの担当者は「収穫前の果実もある。雨で玉が太るか、傷がついて等級が下がるか」と語り、不安を隠さなかった。 (溝口恵子)