三上博史「反面教師で構わない…あんなダサいことは絶対したくないというのでも。本気でやってるのは見せないと」 20年ぶりに歌う、伝説のヘドウィグ
ロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の日本初演(2004年)、2005年の再演で、観客を興奮の渦に巻き込んだ三上博史さん演じるヘドウィグ(※注)。今回、20周年を記念した、PARCO PRODUCE 2024『HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】』に出演する三上さんに、その思いや構想について取材した。 【写真】今も変わらず、三上博史さんらしさが! 1980年代から数々のドラマや映画、舞台でも幅広く活躍し、長年音楽活動も継続。彼がまさにステージの上でヘドウィグとして存在し、セクシーかつチャーミング、パワフルな存在感を放っていた舞台は当然話題となり、即完売するプラチナ・チケットに。 今回、新たなライブ・バージョンで届けるステージは、11月26日にPARCO劇場で開幕し、京都・仙台・福岡でも上演される。愛と自由を得るために性転換手術し、失敗したヘドウィグの物語を歌で紡ぐ三上博史さん。ヘドウィグの世界を今どのように捉えているのか。最後は思いがけず、涙を流しながら色々と語ってくれた。
鮮烈な日本初演は客席側の熱量もすごかった
――『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』との出合いは? 40歳で役者稼業を引退しようかなと思っていたとき、舞台『青ひげ公の城』(2003年)に出演。「こんなに自由に泳げる場所があるんだ」と、演劇に気持ちが傾倒していったその公演が終わり、アメリカ西海岸にある自分のアパートに帰った後、小さな町でたまたま『ヘドウィグ――』の舞台を観たんです。 なんの予備知識もなかったけど、音楽だけはすごく印象に残りました。オリジナルキャストとはずいぶん離れた舞台でしたが、20代30代にやってきた自分のバンドで、このグラムっぽい楽曲をやったらすごくいいだろうなと。それで、日本で皆さんにその舞台のことを話してはいて、その後紆余曲折があり、僕に出演依頼がきたんです。「あのとき、歌いたいと思ったな」と、1年目、そして2年目とやらせてもらうことになりました。 本当に自由に泳ぐようにやれて、手応えもあり、客席側の熱が舞台の上の僕にも伝わるぐらいどんどん増殖し、盛り上がっていきました。でも3年目となると、「もうできないよ」って。しんどいのもあったけど、いろんな人のヘドウィグも観てみたかったしね(笑)。 ――三上さんが“日本版ヘドウィグ”の扉を開き、その後もこの舞台は観客から熱狂的に迎えられ、上演が続いていきましたが、その様子をどのように感じていましたか? 「いろんな人のヘドウィグを観たい」と言いましたけど、実は誰のも観たことがない! それぐらい(ほかの人のヘドウィグに)興味がないです(苦笑)。でも、オフ・ブロードウェイの作品が、日本でメインストリームな作品になっていくのは、すごくいいことだと思う。日本はそういう壁、線引きがないのがおもしろい。やっぱりどこの国でも、“オフオフ”は“オフオフ”だから。エンターテインメントとしてマジョリティが取れる国って、すごいなと思います。 ――2005年以来のヘドウィグとなりますが、今の心境は? 待ってくれている人がいるし、がっかりさせたくない。ただ、当時は10cmの高さのピンヒールでやっていたけれど、今日靴の打ち合わせをして、それはちょっと無理だろうと。 最初「20周年の祭りだから、曲を披露するだけでもいいのでは」とお話をいただいたのですが、そうやって考えると、20年前の「楽曲をやりたかった」というところに戻るんですよね。 今回は、その後もずっと付き合いのあるミュージシャンたちと出演します。一人、ギタリストだけ新メンバーが入っているのですが、あとは全く同じです。みんな同世代の僕の仲間たちで、20年分の彼らの人生が出るので、深みは増しているし、おもしろいことになるはず。