新会館の序章の死闘 豊島九段が細い攻めつなぎ2勝目 第83期順位戦A級6回戦
第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は6回戦がスタート。12月3日(火)には豊島将之九段―稲葉陽八段の一戦が関西将棋会館で行われました。対局の結果、稲葉八段用意の振り飛車策に対して、粘り強い指し回しを見せた豊島九段が190手で勝利。新しい関西将棋会館のこけら落としを制して今期2勝目を挙げました。 ■新会館の幕開け 大阪市から高槻市に移転した新・関西将棋会館の初日となったこの日、公式戦のほかに道場やショップもオープンして多くのファンでにぎわいます。順位戦では今期1勝4敗と苦しい星取りの両者、先手となった稲葉八段は阪田流向かい飛車と呼ばれる角交換向かい飛車の力戦策を用意していました。対して居飛車を持つ後手の豊島九段は自然な駒組みで応じます。 先にポイントを奪ったのは稲葉八段でした。金桂交換の駒損を受け入れながらも軽く2筋に右桂を跳ね出したのが筋よい打開策。玉側の端攻めを受けるために後手が貴重な金を手放すよりないのを見越しています。とはいえ両者ともに敵陣攻略のための戦力は不足。盤上は定跡形を遠く離れた長期戦の様相を示し始めました。 ■つながった細い攻め 戦いが夜を迎えてもなお振り飛車ペースの時間帯が続きますが、玉の堅さで優る豊島九段も粘り強く指して決め手を与えません。苦労して2筋に馬を作ったのは右辺に孤立する稲葉玉を寄せるための大きな足掛かり。これ以降、局面のテーマは左辺に逃げ出した稲葉玉を豊島九段が限られた攻め駒で寄せ切れるかに絞られました。 持ち時間でリードする稲葉八段も決断よく指して相手に時間を与えませんが、優位に立った豊島九段の攻め手は最後まで冷静でした。日付が変わったころ、先手陣の防衛ラインとなっていた5五の歩が馬に取られては勝負あり。終局時刻は翌4日1時15分、最後は自玉の受けなしを認めた稲葉八段の投了で豊島九段の今期2勝目が決まりました。 一局を振り返ると、力戦形の中盤で主導権を奪われつつも自玉の堅さを生かして二枚角の攻めをつないだ豊島九段の辛勝譜に。7回戦で豊島九段は増田康宏八段、稲葉八段は菅井竜也八段と顔を合わせます。 水留啓(将棋情報局)
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