クルド人の「迫害と弾圧」は今も続いているのか トルコ政府「問題は民族でなくテロ組織」 「移民」と日本人 クルド人が川口を目指す本当の理由④
同政権はクルド人との融和を掲げ、国営放送でクルド語の放送が始まり、クルド系政党はクルド語での政治活動が可能になるなど、クルド系住民の権利拡大に努めてきた。背景には、トルコの悲願であるEU加盟実現のため、国内の人権状況を改善する必要があったことがある。
12年からは政府とPKKとの和平交渉が始まり、翌13年、PKKは武装解除を宣言。だが、15年6月の総選挙でPKKと連携するクルド系の左派政党が躍進し、エルドアン政権の与党が過半数割れとなった上、PKK内部の路線対立もあって政府とPKKの対立が再燃した。
首都アンカラでは昨年10月、内務省付近で自爆テロが発生し警察官2人が負傷、PKKが犯行声明を出した。先月23日にはアンカラ郊外の大手防衛企業が襲撃され27人が死傷。PKKの軍事部門が犯行声明を出し、トルコ軍がイラク北部とシリア北部にあるPKKの関連拠点を空爆するなど応酬が続いている。
■「兵役拒否」も理由に
川口に在留するクルド人の間では、こうした対立状況を「クルド人への迫害」と主張し、難民申請の理由とする形になっている。一方で、トルコで兵役を拒否したことで迫害を受けると主張する人も少なくないという。
トルコは国民皆兵で、兵役は20歳から41歳までの男性に6~12カ月、義務づけられている。身体障害などがないかぎり兵役拒否は認められず、罰金などが科せられる。
しかし、これはクルド人に限ったことではなく、昨年10月に発行された英国内務省の難民に関する報告書はトルコの兵役義務が難民条約上、迫害には当たらないと指摘。条約上の難民の定義は「人種」や「宗教」「政治的意見」など5つの理由から迫害を受ける恐れがある場合で、出稼ぎ目的の経済的理由も難民には該当しない。
川口市内のクルド人をめぐっては、トルコ政府が昨年11月、2つのクルド人団体とその幹部らクルド人6人についてPKKを支援する「テロ組織支援者」と認定、同国内の資産を凍結した。認定は現在も続いている。
PKKとクルド人について、トルコ政府関係者は「PKKに対するわが国政府の措置が、時にクルド人への迫害だと誤解される場合があるが、われわれが問題視しているのは決してクルド人という民族ではない。問題なのは分離独立のためテロ活動を続けるPKKという組織だ」と話している。(「『移民』と日本人」取材班)