「完璧な備えはないと実感した」井上晴美さんが熊本地震の経験を振り返って学んだこと 防災専門家が解説 #災害に備える
防災専門家が語る「理想の避難生活」とは:井上晴美さんの経験から学ぶ、防災グッズ以外の備え
――井上さんは、車中泊とキャンプをしながら避難生活をしていました。避難所以外の場所で避難生活を送るうえで意識しておくべきことはありますか? 佐藤翔輔: 避難所はいわば集団生活の場所なので、たくさんの人が集まる中でプライバシーを守りにくかったり、コロナ禍でなくてもトイレや水道を共同で使うことで感染症のリスクが高まったりと、心身への負担は少なくありません。避難所以外の場所で避難生活を送ることができるのであれば、それに越したことはありません。 災害が起きたときに電気・水道・ガスが使えなくなることがありますが、手元にあるもので代用・工夫すると乗り越えられます。都市部はさまざまなサービスに依存しているため、避難生活はとても大変ですが、地方だと井戸や川があったり、普段から家族でBBQをしていたりするので「なんとかなる」ことも多いです。私が被災した2004年新潟県中越地震でも、ビニールハウスにブルーシートを敷いて寝泊まりするなど、手元にあるもので工夫して避難生活を送る人が多く見られました。都市部にお住まいの方も、キャンプなどをきっかけにして、ライフラインがない状況を過ごせる知恵や力を身につけることは良いことですね。 しかし、避難所以外の避難生活では情報を受け取りにくくなるデメリットもあります。そういう場合は、自治体のホームページや新聞、さらにはご近所とのつながりで対応することを心がけましょう。とくに地方紙は、地域に根差した情報を発信してくれるため、災害時に心強いメディアです。 災害が起きた後、SNSには頼りすぎないようにしてください。SNS上には情報が氾濫していて、デマの判別が難しくなります。SNS上にある大事な情報は、自治体のホームページに載っていますから、確実に正しい情報を手に入れるようにしましょう。 ――井上さんは完璧な備えはないと実感したとお話しされていました。 佐藤翔輔: 完璧な備えはないかもしれませんが、備蓄をして避難の仕方をあらかじめ決めておけば、ある程度は対応できます。避難の仕方について家族で話すタイミングはなかなか難しいかもしれませんが、他の地域で災害が発生したときが一番話しやすく具体的なイメージもしやすいと思います。話し合うときには、日中と夜間、平日と休日といったシチュエーション別、想定される災害別に決めておくのがベストです。 また、水害などは予測できるうえに逃げる時間の猶予がありますが、地震は直前にしか予報が出ず、とっさに避難しにくい特徴があります。地震後の避難生活の準備をすることはもちろん大切ですが、地震に耐えられる住まいかどうかを確認することも、命を守るうえではとても大切です。 ----- 井上晴美 女優・タレント。 1974年9月23日生まれ。熊本県出身。16歳で芸能界に入り、ドラマ・映画・舞台など数多くの作品に出演。国際結婚をし、今は3児の母。出産を機に東京を離れ、山の中で自然に囲まれながら子育てをしている。お仕事のときは、山から通い、主婦業と女優業をこなしている。 佐藤翔輔 東北大学災害科学国際研究所・准教授。 1982年新潟県生まれ。2004年に7.13新潟水害と新潟県中越地震を体験。博士(情報学)、京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了、東北大学助教を経て、2017年より現職。災害・防災に関するコミュニケーションの領域について、実務現場と連携して取り組むほか、防災・減災の啓発に関する活動やツール開発活動などを行う。令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、地域安全学会年間優秀論文賞(2019年、2013年)ほか多数受賞。 文:佐々木ののか 制作協力:BitStar