「完璧な備えはないと実感した」井上晴美さんが熊本地震の経験を振り返って学んだこと 防災専門家が解説 #災害に備える
防災専門家が語る「理想の備蓄」とは:井上晴美さんの経験から学ぶ、適切な保管場所
井上晴美さんの被災体験を、防災専門家はどう見るのか。東北大学災害科学国際研究所・准教授の佐藤翔輔さんにお話を聞いた。 ――井上さんは防災グッズをしっかり準備されていたのに、実際には使えなかったのはとても悔やまれたと思います。食料などの備蓄はどのような場所に置くとよいでしょうか。 佐藤翔輔: 井上さんもお話しされていましたが、被災後に取り出せなくなる可能性を考えて、2カ所以上の場所に分散させて保管するのが最適です。そのうえで、3つのポイントを押さえて保管しましょう。 まず、食品の劣化を防ぐため、直射日光や寒暖差、高温多湿の場所を避けて保存しましょう。2つ目は、水害などの場合に備えて、高い場所や2階以上も保管場所の候補として考えましょう。3つ目は、家が全壊した場合に備えて自動車内にも用意しておくと、災害時だけではなく、長時間渋滞が起きたときにも役立ちます。 ちなみに、食料は、お米のほか、切り干し大根やひじきといった乾物など、保存できる普段使いの食材も十分な備蓄になります。調理するノウハウを持っておくことが大切です。 ――食材や防災グッズ以外に用意しておくべきものはありますか。 佐藤翔輔: 井上さんも気づかれていましたが、お子さんがいるご家庭なら絵本、ゲーム、ぬいぐるみなど、まわりに音の影響が出にくいおもちゃを用意しておいてください。子どもは感受性が高く、また静かにじっとしていることも難しいためです。 乳児がいる場合はミルクやおむつなども忘れずに、非常用持ち出し袋に入れておきましょう。
井上晴美さんが語る「避難所に行かない避難生活」とは:ないものは作ろうという考え方が大事
――井上さんは避難所には行かずに避難生活を送られたそうですが、それはどうしてでしょうか。 井上晴美: 皆さん大変な状態で生活されている中で、子どもの声が響くとストレスがたまっちゃうだろうなと思いましたし、ただでさえ避難生活でいろいろと我慢させている子どもたちにも「黙ってなさい」とか「これをしちゃダメ」という制約を与えたくなかったんです。家を出た後の数日は、私たち大人は車中泊、子どもたちはテントで寝泊まりしていました。 当時は、うちと同じように3人の子どもがいるお友達の家庭と、二つの家庭で避難生活を送っていました。お友達の旦那さんが地震の影響で帰ってこられないというので、まず彼女の家まで車で迎えに行ったのです。その時、2mくらいの薪のストッカーがある場所に車を止めたのですが、本震でストッカーが倒れてきて車の中に閉じ込められちゃって。車を止めておく場所を間違えると危険だなと実感しました。 ――避難生活で、不便なことはありませんでしたか? 「ないものはつくろう」と頭を使って不便さを楽しむような子育てをしていたこともあって、子どもたちも私もあまり不自由さを感じることはなかったんです。下水が使えない状態になっていたので、トイレの問題はありましたけど、外で用を足すことで済ませました。 ただ、完璧な備えはないと改めて実感しましたね。備えることも大事ですが、ないものを代用する習慣や発想を大事にしていきたいと思います。