XにもYouTubeにもない「底知れない拡散力」がある…米国政府が本気で「TikTok規制」に乗り出す本当の理由
米国で中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用を規制する法律の施行が近づいてきた。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「この問題は『米中テクノロジー覇権争い』の象徴になっている。ドナルド・トランプ氏の大統領就任後は政策の方向性が再度変化する可能性があり、TikTokの未来は地政学的影響と国内政治の双方に左右され続けるのではないか」という――。 【写真】アメリカの平均SNS使用時間、3位はX、2位はYouTube、1位は… ■施行まで期限が迫る「TikTok禁止法」 米国では「来年1月からTikTokを利用できないかも?」と心配する声が聞かれる。バイデン政権の最終日、1月19日に「TikTok禁止法」の施行が予定されているからだ。 欧州でも、TikTokの運営会社に欧州委員会の調査が入ると報道された。いま世界のTikTokで何が起きているのか。今回は米国を中心にTikTok問題を取り上げたい。 まずは米国の「TikTok禁止法」について、これまでの経緯を詳しく説明しよう。 今年4月、連邦議会上院でTikTokのサービスを規制する法案が賛成多数で可決、ジョー・バイデン大統領が署名して新法が成立した。正式には「アメリカ国民を外国敵対勢力管理アプリケーションから保護する法律(Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act)」という。規制の対象は、中国など敵対国に本社がある企業などが運営するアプリ。条文で「TikTok」と親会社の中国企業「バイトダンス」が名指しされたことから「TikTok禁止法」「TikTok規制法」と呼ばれている。TikTok問題は実際のリスクとは別に、米中間でつづくテクノロジー覇権争いの象徴でもあるからだ。 新法では、国民の多くがTikTokを利用すると、米国の国家安全保障(National Security)が脅かされるとしている。 ■米国が懸念する「3つのリスク」 懸念されるリスクは主に次の3つ。 ---------- ① 個人データの収集 利用者のデータ(位置データ、検索データ、動画視聴データなど)が収集される。 ② 世論操作の懸念 アルゴリズムによる影響力(世論操作、選挙への介入など)がある。 ③ 中国政府の情報利用 中国政府が不当にTikTokのデータを利用するおそれがある。 ---------- 中国では国家情報法、サイバーセキュリティー法などによって、個人や企業が政府に情報提供を要請されると協力する義務がある。TikTokが米国人のデータを取得している状況は、中国の脅威を増大させるというのである。 「TikTok禁止法」は、成立後270日以内に、バイトダンスが米国企業などの第三者に米国TikTokの事業を売却しなければ、同アプリ・サービスの禁止措置がとられる。成立後270日の期日にあたるのが来年1月19日、ドナルド・トランプ次期大統領の就任前日だ。