世界王者・内山が後輩に授ける秘策
誇れる後輩だ。 「2人共にそれぞれスパーリングで一度やられている相手。よくこのマッチメークを受けた。偉いですよ」 WBA世界スーパーフェザー級王者、内山高志が所属するワタナベジムの2人の後輩が、揃って8月25日に同日開催されるビッグファイトのリングに立つ。内山は、試合当日、神奈川・座間で行われる日本ライトフライ級タイトル戦と、江東区・有明で行われる村田諒太(27=三迫)対柴田明雄(31=ワタナベ)の73キロ契約ウエイト6回戦の2試合を掛け持ち応援する予定だ。田口良一(26=ワタナベ)対井上尚弥(20=大橋)の試合は、解説席でのテレビゲスト解説。それが終わると、すぐさま有明に駆けつけ、柴田明雄のセコンドに付くつもりでいる。 ジムの可愛い後輩2人の試合だけに評論家のような客観的な予想はできない。内山の口ぶりから察するところ“モンスター”井上の挑戦を受ける田口の方に“番狂わせ”を実現する可能性を感じているように思える。 「田口には、チャンスがあると思うんです。もちろん、テクニックもパワーも井上が上ですが、田口は気が弱そうな顔をしていて実は気が強い(笑)。打ち合いになると相手が引くまで下がりません。しかもパンチが切れます。おそらく井上は、怪物と騒がれていますからプライドがあるでしょう。『内容で見せなきゃいけない』という気で倒しに来ると思います。そこがチャンスなんです。田口も相打ちも怖がりませんから。カウンターが当たれば井上でも倒れるでしょう」 内山が考える田口勝利の絵図は、井上の『倒す!』という気迫に負けずに打ち合えば、リスクはあるが、そこに勝機も生まれるというもの。 「井上に弱点は見当たりませんが、どんなボクサーでも打たれれば効きます。これまでまともに打たれたことがないだけのことでしょう。田口がひるまず一発当てれば『パンチあるなあ、次もらうとやばいな』と思うかもしれない。そういう気持ちが少しでも出ればボクサーは、自分のパフォーマンスを出せないものなんです。井上に危険だと思わせ、ちょっとずつ潰していくことです」 キーワードは、ひるまずに前へ出ること。玉砕覚悟で、一か八か打ち合うのだ。そこに辰吉丈一郎に並ぶ日本最速タイ記録の戴冠を狙っているモンスターの計算を狂わす可能性が潜んでいる。 その挑戦者、井上は、この日、大橋ジムで練習を公開した。 ――もしすると序盤から打ち合いを仕掛けてくるかもしれないが? そう質問をなげかけると、減量中で一番苦しい時期にも関わらず涼しい顔をして言った。 「打ち合いにきても、距離をとっても、どちらにでも対応できる準備はできています。スッキリと気持ちの整理もついた。楽しみ。村田さん以上にしっかりとアピールしたい。流れの中でしっかりと決めてみせます」