「光る君へ」道長の男泣きは台本になかった チーフ演出が吉高&柄本、屈指の名シーン振り返る
病に倒れ宇治で休養する道長を見舞うまひろ。この頃、道長と三条天皇の覇権争いが激化。道長は三男・顕信(百瀬朔)が突然出家、三条天皇は娘・妍子(倉沢杏菜)の元に渡らず……と心労が絶えない状況にあり、従者の百舌彦(本多力)が薬を運んでも口をつけようとせず、もはや生きる気力を失っているようだった。百舌彦に懇願され宇治にやってきたまひろは、弱った道長を見て言葉を失った様子。道長はまひろの姿を目にして驚くも、言葉を発さない。沈黙の中で二人のどんな思いが交わされているのか、視聴者の想像を掻き立てる名シーンだったが、中島はシーンの意図をこう語る。 「まひろは道長があんなに弱っている姿を見たことがなく、相当なショックを受けている状況です。私からお願いしたわけではないのですが、そんなまひろの想いを汲んでくださったのか、吉高さんは涙を流された。でも道長を元気づけるためにやってきたわけですから泣いたままの顔で会うわけにはいかないので、一回涙を拭って気持ちを落ち着かせて“そんなに心配してないですよ”みたいな顔で『道長さま……』と声をかける。道長は、まさか彼女が来るとは思っていなかったのでその驚きと、弱っている姿を見られてしまった羞恥、そう見られまいとする思いが交錯して、一瞬少しかっこつけるような素振りを見せる。そのことも多分まひろはわかっているので、“体は大丈夫?”みたいなことは言わずに『宇治はよいところでございますね』と。対して道長は『川風が心地よい』と答えたので、まだ彼にも元気が残っているんじゃないかと受け止め外に連れ出す。細かい指示はしていませんが2人の心の流れを確認しながらシーンを作っていきました」
幼少期に初めて出会った頃のように川辺に佇む二人。「誰のことも信じられぬ。己のことも……」といつになく弱音を吐く道長に、まひろは「もうよろしいのです。私との約束は。お忘れくださいませ」とその重責を慮るも、道長は「お前との約束を忘れれば、俺の命は終わる」と聞かない。そして「この川で2人流されてみません?」(まひろ)、 「お前は俺より先に死んではならん。死ぬな」 (道長)、「ならば道長さまも生きてくださいませ。道長さまが生きておられれば私も生きられます」(まひろ)とやりとりが続く。 中島いわく、ここでもまひろが思っていることと言葉が一致しているわけではなく、特に「この川で二人流されてみません?」という、心中をもちかけるような言葉は複雑な感情をはらんでいる。