次回作『海のはじまり』を執筆中の脚本家・生方美久の自宅事情
令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
すきなものに手が届く。
部屋が狭い。27歳のとき、地元群馬から上京した。そのときは同居人と二人で住んでいたので、間取りは1LDK、リビングもそれなりの広さがあった。その後、一度引っ越しをして現在は一人暮らしをしている。部屋が狭い。もう口を開けば「部屋が狭いぃ」と無意識に言葉が零れ落ちてしまうほどに、部屋が狭い。 部屋が狭い原因はふたつ。ひとつはケチって(今後の収入が不安で)狭い部屋に引っ越したから。もうひとつは物が多いから。物が多い。毎日帰宅して部屋の電気をつけるたびに「物おおぉ」と新鮮に驚く。時々寝てる間に物に溺れるんじゃないかと不安になる。物を捨てられないタイプというやつではない。なんなら年末でもないのに突然思い立って大掃除をして、でかいゴミ袋を3つほどドサッと捨てたりする。なのに物が多い。部屋を見渡してみると、まず服が多い。あとは書籍類とCD・DVD。でかいゴミ袋3つの中身は毎回ほとんど服。捨てられないし場所を取るのは、圧倒的に書籍類。 脚本家の仕事は、書く時間よりリサーチの時間のほうが長かったりする。わかりやすいところで言えば、『silent』のときは手話に関する本を読み漁った。『いちばんすきな花』は多分何かを熱心に勉強しなくても書けるっちゃ書けるストーリーだったけど、主人公たちの仕事にまつわることはある程度リサーチする。ゆくえちゃんは塾の数学講師で、希子ちゃんは中学二年生の設定だったので、中二の数学の問題集を買って一冊解いてみたりもした。点Pとか空間図形って中二でやるんだ、そうか、そうか……とそれが脚本のなかで活かされることもある。なんのこっちゃわからない方は『いちばんすきな花』を見ていただきたい。将棋のルールもさっぱり知らなかったので、羽生善治さん監修の小学生向けの本でお勉強した。難しかった。そんなこんなで、脚本に活かされたり、何の役にも立たなかったりしながら、執筆前にいろんな本や資料を読み漁るのです。そうなると、お世辞にも読書家とは言えないわたしの部屋も本だらけになっていく。しかも執筆のために買った本はなんとなく捨てにくい。手話の本を捨てようとすれば紬ちゃんを思い出してしまうし、将棋の本を捨てようとすれば夜々ちゃんを思い出してしまう。次回作『海のはじまり』の執筆に向けてもいろいろ読んだ。内容と直結するので何の本かは伏せるけど、いろいろ読んだ。そして、絵本もたくさん買った。絵本……絶対捨てられない……。図書館にもお世話になったが、やはり手元に置いておきたいという気持ちになるものである。あとはすきな脚本家さんやすきな作品のシナリオブック。言わずもがな、捨てられるわけがない。 こうしてわたしは、物に溺れていく。