休業前の「山の上ホテル」で本当の「カンヅメ」!? ある文化人の1日【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第32話 新型コロナの変異株に関する論文を短期間でまとめるために、ホテルでの「カンヅメ」が常態化していた筆者。そこに、「カンヅメ」をするホテルの代名詞、文豪たちの愛した「山の上ホテル」全館休業の衝撃ニュースが――。 【写真】409号室のライティングデスク * * * ■山の上ホテルで「カンヅメ」 2023年12月17日。東京・御茶ノ水にある「山の上ホテル」で、この原稿を書いている――。 はっきり言って今回は、私的にはもうこの一文を記すことができただけで満足な、この一文だけでおしまいでもいいくらいの今回のコラムである。 「山の上ホテル」とは、「小説家やジャーナリスト、学者が愛したホテル」、あるいは「文化人のホテル」として広く知られたクラシックなホテルであり、「文豪が愛したホテル」などとも呼ばれている。 ちょっと調べただけでも、川端康成や三島由紀夫、池波正太郎や松本清張、そして、2023年に亡くなられた伊集院静氏などの定宿として愛されていた、と記されている。つまり、文豪たちが「カンヅメ」をするための逗留先として、長く使われていたホテルである。 私は、G2P-Japanによる新型コロナ・デルタ株の論文を短期間にまとめるために、2021年の初夏に初めて「カンヅメ」をした。その後、われわれG2P-Japanは、新たな変異株が出現するたびに、スクランブルプロジェクトを発進させた。 短期間に大量に集まる実験データを一気にひとつの論文に集約するためには、やはり「カンヅメ」が必要になる。特にオミクロン株出現後には、BA.2株やBA.5株、BA.2.75株、XBB株などなど、いろいろな変異株が立て続けに出現した。そのため、2022年には、「スクランブルプロジェクトからのカンヅメ」という生活サイクルが常態化するようになった。 私の「カンヅメ」のスタイルについては、この連載コラムの第17話で、オミクロンBA.1株が出現したときのことが詳しく記されているのでそちらも読んでみてもらえたらと思うが、目黒にある、喫煙可能な小汚いビジネスホテルの一室にこもって、ひたすらに論文を書いていた。 それは、優雅さや聡明さなど微塵もない、泥臭い作業だった。『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~(原作:宮﨑 克 作画:吉本浩二)』という漫画があるが、そこには、手塚治虫がどのようにして執筆していたのか、昼夜問わず、心血注いで作画に没頭していた様子が描かれている。それをイメージして、オマージュしていたかのような作業だった。
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