休業前の「山の上ホテル」で本当の「カンヅメ」!? ある文化人の1日【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■2023年12月17日 2023年12月17日。東京・白金台にある研究室での打ち合わせを終えた私は、白金台駅から都営三田線に乗り、神保町で下車。靖国通りに沿ってすこし歩く。風は冷えるが、天気の良い日曜日の昼下がりである。 「かんだやぶそば」には行列ができていて、そこに並んでしばし待つ。数十分ほどで店内に案内され、席につくと、あいやきと天抜き、それにエビスの瓶ビールを注文。芝海老のかき揚げが浮かぶ天抜きは、行列に並んで冷えたからだを暖めてくれる。柔らかい合鴨のロースと、その脂がよく染みたネギは、中瓶を注いだ小さなグラスで飲むビールにとても合う。 次は日本酒と穴子の白焼き。すだちを絞って七味唐辛子をすこしかけた穴子やねりみそをつまみながら、小さな盃に注がれた日本酒をひと口すする。 シメにせいろを2枚。辛口のつゆにつけて食べる蕎麦と日本酒がとてもよく合った。蕎麦湯を飲み、年越しの酒のアテに、ねりみそを土産に買う。 AirPodsで斉藤和義の「メトロに乗って」を聴きながら、靖国通りを歩いた。街ゆく人々の足取りや路面に並ぶ店のデコレーションからも、年の終わりが近づく空気が醸し出され始めている。 途中、三省堂書店の仮店舗に寄って、つい最近発売された、われわれG2P-Japanの奮闘記である『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』(日経サイエンス)が店頭に並んでいるかを覗いてみた。しかし残念ながらそれは見つからず、書籍検索でも「在庫なし」とある。 通りに出て、明大通りを右に折れ、山の上ホテルにチェックイン。私の部屋は409号室だった。部屋の中をひととおり眺め、ライティングデスクに座り、いそいそと執筆活動を始める。なにせこれは、文化人のカンヅメなのである――。 ――と、至極当然の話ではあるが、文豪がカンヅメしたホテルに泊まったところで、そしてその一室で執筆したところで、別に文章がうまくなるわけでもないのである。さらに言えば、文豪がカンヅメしたホテルに泊まったところで、私自身のカンヅメスタイルが変わるわけでもないのである。 書かなければならない論文も書類も、ちょうど手元にひとつもなかった。根が貧乏性で生真面目な私は、結局ほとんどの時間を部屋にこもったまま、夕食のために館内の天ぷら屋や鉄板焼き屋に足を運ぶこともなく、ルームサービスでパスタを食べ、ライティングデスクに座って、ひたすらにコラムの執筆にいそしんだのであった。 翌朝、やはりルームサービスで朝食を食べ、やはりライティングデスクに座ってひとつのコラムを仕上げた後、小さな荷物をまとめ、正午にチェックアウトした。 ロビーにある本棚には、伊集院静氏の書物が並べられていた。そしてその横で、集英社の編集者Kが私を待っていた。 文・写真/佐藤 佳
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