長寿食研究家 永山久夫:世界に長寿の花を咲かせましょう!
基本は自然の恵みへの感謝
永山の和食の捉え方は極めてシンプルだ。過度に手を加えず、素材の持ち味を生かす。そして、季節感が豊かな日本の風土だからこそ、「旬」という出盛りのおいしい時期を大切にする。さらに「はしり→さかり→なごり」といった旬の移ろいに従って食材を選び、調理していくことも大切だという。 和食は長寿につながると考える永山。長寿食の重要な食材として、「豆・ごま・魚・鳥・梅・ニンニク・野菜・昆布」の8つを挙げ、それらを全部一緒に煮込んだ「100歳鍋」を薦める。 一日三食、来る日も来る日も人は何かを食べる。食べ物が、日々、私たちの骨や歯や筋肉、内臓を作っていくのはあまりにも自明のこと。永山は、「日本の伝統的な日常食である『一汁三菜』は、人間が健康を維持して長生きするための基本中の基本だ」と言う。
「毎日の食事は自分の力だけで得てるんじゃない。食の恵みは、太陽や自然のエネルギーの力がもたらしてくれる。そうした力に対して、手を合わせて『いただきます』と言って感謝を示すことが大切なんです。食べながら箸でつまんで、何をいただいているのか、よく見る。そのエネルギーの塊が体の中に取り込まれて花開いていくのを想像するだけで、食事が豊かになりますよ」 「食べ終わったら、手を合わせて『ごちそうさまでした』と言う。『ちそう』とは『馳走』のことで、食事の準備のために駆け回るという意味があります。そうして準備してくれた人に、感謝することも大切なこと」 「いただきます」「ごちそうさま」の祈りの中にこそ、和食の真髄(しんずい)があると永山は力説する。
長寿食の魅力を世界に
和食の伝道師・永山は、ニッポンの食環境の劣化に危機感を抱いている。「食料、肥料、飼料、みんな外国に依存し過ぎです。この半世紀、ニッポンの食は海外から買い集めた食材で成り立ってきました。その結果、国内生産が減って大地が劣化するもんだから大量の肥料が必要になる、といった悪循環の繰り返しです。環境の変化によって人間が滅びる最悪の事態も現実味を帯びてきているのでは」 長年、和食を基本とする長寿食の研究をしてきて、永山は“おむすび”に立ち返ることが大事だと説く。 「おむすびという言葉の源は、産霊(ムスヒ)です。ムスは生成を、ヒは霊的な力を表します。手と手を結び合わせて握ってくれたおむすびには、魂が込められているからおいしい。最近、おむすびは、ONIGIRIの呼び方で世界中から注目されていますよね。これからの日本人は、どうやってこうした“おむすび”の精神を伝え、広めていくかが問われているのだと思います」 91歳翁(おう)の夢は、和食の基本を抑えた長寿食の魅力を日本だけでなく、世界中に広めることだ。 「世界に長寿の花を咲かせましょう!」 食の花咲爺(はなさかじい)さん、老いてますます盛んなり。 写真と文=大西成明
【Profile】
大西 成明 写真家。1952年奈良県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。「生命」や「身体」をテーマにした写真を撮り続けている。写真集『象の耳』で日本写真協会新人賞(1992年)、『地球生物会議』ポスターでニューヨークADC賞ゴールドメダル(1997年)、雑誌連載『病院の時代:バラッド・オブ・ホスピタル』で講談社出版文化賞(2000年)、写真集『ロマンティック・リハビリテーション』で林忠彦賞、早稲田ジャーナリズム大賞(2008年)を受賞。元東京造形大学デザイン学科教授。