再生回数3億回超、マカロニえんぴつのはっとりが語る「『なんでもないよ、』はラブソングのタブーに触れた」
この時期に心の支えになっていたのは、音楽大学の先生の言葉だった。 「『君たちの音楽は今風ではないし、ちょっと懐かしい感じもある。今はウケないかもしれないけど、音楽シーンやカルチャーは回っているから、チャンスが来る可能性はあると思うよ』と言ってもらえて。確かに流行に反応しすぎるのはよくないし、やりたいことを続けていこうと思えたのは大きかったですね」 試行錯誤を続けながらも、全国ツアー、作品のリリースなど、少しずつ活動の幅を広げてきた彼らにさらなる試練が訪れたのは、2017年9月。オリジナルメンバーのドラマーが脱退したのだ。そのことをきっかけにしてマカロニえんぴつは、制作の方法を大きく変えることになる。
「メンバーひとり抜けて4人体制になったことで、バンドの在り方を見つめ直したんです。まず、アレンジを全員でやるようになった。いざやってみると、メンバーから面白いアイデアが出てきて、音楽の幅も広がりました。曲作りも変わりましたね。たとえば(代表曲の)『レモンパイ』は、セッションしながら作ったんですよ。大ちゃん(長谷川大喜/キーボード)が弾いたイントロからはじまって、全員で音を出しながら一曲に仕上げて。そういう作り方だと、楽曲の構成や展開が自然だし、シンプルでポップな曲になりやすいんです。実際、『レモンパイ』はたくさんの人に聴いてもらえたし、バンドを認知される一つのきっかけになりました」
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その後もさらにジャンルの幅を広げ、ロック、R&B、ジャズなどを取り入れた音楽性によって注目度を高めた彼ら。2020年11月にミニアルバム『愛を知らずに魔法は使えない』でメジャーデビュー。配信ライブも積極的に行い、マカロニえんぴつは一気に知名度を上げた。特に評価されているのが、切ないラブソング。特にアルバム『ハッピーエンドへの期待は』に収録された「なんでもないよ、」は、ストリーミング累計再生回数3億回を超える大ヒットとなった。 「自分としてはすべてラブソングのつもりで書いているんです。つながりたい、交わりたい、理解してほしいという気持ちが強いし、そもそも歌を書くような人は寂しがり屋ですから。『なんでもないよ、』は、歌の表現としてはタブーに触れたところもあるんですよ。歌の本来の役割は、『私が言葉にできなかった気持ちを歌ってくれた』ということだと思うんですが、『なんでもないよ、』は、『えーと、ごめん、なんでもないです』という内容なので。あの曲が多くの人に受け入れられたのは、すごくリアルだったからだと思います。何を言っても野暮になることはあるし、相手を傷つけたり、誤解されるくらいなら『なんでもない』ってことにしちゃおうっていう。同じやり方はできないので、似たような曲を作るのはもう無理ですけどね」 2022年は結成10周年のアニバーサリーイヤー。日本武道館公演を皮切りに、キャリア史上最大スケールとなるさいたまスーパーアリーナ2DAYS公演を含むツアーを成功させるなど、バンドとしてさらなるスケールアップを果たした。 「フェスなどを含めると年間80本くらいライブをやったんですけど、とにかく充実してましたね。メンバーの肝が据わってきたし、こいつらに任せれば大丈夫だと思えるようになって。10年目のツアーで、みんなで歌詞を書いて、みんなで歌う『僕らは夢の中』(2022年の『たましいの居場所』収録曲)を演奏することも大きな意味があるんですよね。最初に思い描いていた形とは違うけど、『僕らなりのユニコーン』になれたなと」