加部究のフットボール見聞録「厳寒時代の“闊達な人”田口光久氏を偲ぶ」
175センチで日本代表のゴールを
日本代表や三菱重工などで活躍した田口氏。11月12日に亡くなったが、その笑顔は多くのサッカーファンの記憶に残っている。写真提供:絹見誠司
思い出すのは1974年の元日である。「黄金の足」の異名を取った杉山隆一氏が、家業を継ぐために天皇杯決勝を最後に引退すると公表。当時まだ32歳、ドリブルのキレも十分に健在で、三菱重工を勝利に導く2ゴールを演出し、3万5000人の観衆の前を肩車されて回った。 だがこの鮮やかな引き際には、重要な陰の立役者がいた。それまで三菱のゴールマウスに立ち続けたのは、日本代表の正GKの横山謙三氏だが、シーズン終盤に故障。代わって日本一を決める大事な一戦に抜擢されたのが、秋田商業高から入社したばかりのルーキー、田口光久氏だった。三菱が対戦相手の日立を圧倒した試合ではなかった。しかし度胸満点の18歳は、スーパースターを見送る大舞台でも物怖じせずに果敢なセーブを続け1失点に抑え込む。 やがて田口氏は、10年間以上も日本代表のレギュラーを続けてきた横山氏から守護神の座を引き継ぎ、2年後には自ら日
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