起業のきっかけは「工賃が6000円程度だった」障害者福祉への強い違和感 鹿児島発の新しい福祉のかたちは「才能を活かす仕事づくり」
ウェブ企業経営者から転身し、鹿児島で福祉事業を展開する「ひふみよ」代表取締役の白澤繁樹さん。従来の福祉の枠組みを超え、アートや農業、在宅での記事制作など、利用者の個性を活かした仕事づくりに取り組み、全国平均の2倍以上となる月額3.5万円(2023年度 平均工賃額算定額)の工賃を実現している。新しい福祉のかたちを追求する白澤さんに聞いた。(聞き手 SDGs ACTION!編集部・池田美樹) 【写真】アートも雑貨もパパイヤもクラフトビールも…
従来の福祉を超えて新しい価値をつくる
――事業について教えてください。 鹿児島県を中心に活動するソーシャルカンパニーです。子会社を含め、県内に4つの就労継続支援事業所があり、知的障害、精神障害、身体障害、難病など、様々な障害のある方々と一緒に社会課題の解決に取り組んでいます。 私たちの特徴は、従来の就労支援施設でよく見られる内職的な作業ではなく、一人ひとりが主人公となり、彼らの個性が輝くような仕事づくりを心がけていることです。 例えば、スパイスカレー店の運営やアートの活動、アパレル、メディア制作など、多様な取り組みを続けています。その結果、利用者さんの平均工賃は3.5万円台と、全国平均の1.7万円を大きく上回っています。ただ、まだまだ十分とは考えておらず、さらなる向上を目指しています。 ――白澤さんはもともと福祉の分野にいたわけではないそうですね。 23歳で友人たちと起業して、ウェブデザインの仕事をしていました。その後、経営コンサルタントとして活動している時に、ある社会福祉法人のコンサルティングを担当し、初めて障害者福祉の世界を目の当たりにしました。その時、障害のある方が1カ月働いて得られる工賃が6000円程度だったことに強い違和感を覚えました。 社会福祉法人は財務基盤も安定していたのに、なぜもっと投資して彼らの可能性を広げる仕事を作れないのかと考えたのです。 ――その後、どのように行動を起こしましたか。 全国の事業所を見学して回りました。すると、同じ就労継続支援B型(最低賃金が保障される「雇用契約」に基づく就労が困難な人に、就労や生産活動の機会を提供するサービス形態)の事業所でも、月に10万円稼げている利用者さんがいる施設もありました。その共通点を探ると、新しいサービスや商品を生み出すことにたけた民間の事業所が多かったのです。 ただ、そういった施設は全体の10%にも満たない状況でした。そこで、私のウェブやデザインの経験が、障害のある方々と一緒に仕事をつくっていく上で役立つのではないかと考え、2014年に会社を立ち上げ、2015年に最初の事業所を開所しました。 スタート時は低工賃だったり、当事者が主人公として活躍できていなかったりする既存の事業所へのアンチテーゼとして始めました。世の中で効率化が求められる中、私たちは逆に作業を細かく分解し、それを価値の最大化につなげていく考え方を取り入れています。効率を下げるのではなく、一つひとつの工程に新しい価値を見いだしていくアプローチです。