前原滉 ヒロインオーディションの相手役のはずが映画に出演することに
■映画のヒロインオーディションの相手役に
2017年、前原さんは、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)、「陸王」(TBS系)、映画「あゝ、荒野(前篇)」など話題作に立て続けに出演。 「あゝ、荒野」は、兄貴分の復讐を誓う新次(菅田将暉)と、吃音と赤面対人恐怖症に悩むバリカンこと健二(ヤン・イクチュン)がもがきながらもボクサーの道を進んでいく姿を描いたもの。前原さんは、前篇のクライマックスシーンで衝撃的な死を遂げる「自殺研究会」の主宰者でカリスマ的リーダー・川崎敬三役を演じた。 「とてもよく覚えている作品です。いろんな作品をやらせていただいていますけど、『あゝ、荒野』は、いろんなきっかけが詰まっている作品かなと思います」 ――そもそも最初は俳優さんとして呼ばれたわけではなかったそうですね 「はい。菅田(将暉)さんの相手役(ヒロイン)を決めるオーディションの相手役をやってくれということで。(声をかけてくれた人が)本当にお世話になっている方だったので、頑張ろうって思った記憶しかないです。 ただ、オーディションの前日にすごい量のシーンが送られてきたんですよ。でも、ヒロイン志望の人は、多分このオーディションに懸けているだろうから、こっちがセリフを覚えてなかったらダメだよなとか。 でも、そこまで頑張らなきゃダメかなとか、いろんなことを考えたけど、覚えとかなきゃダメだと思ってバーッと覚えた記憶があります。 そのときには、自分も出してもらえたらいいなって思う余裕はなかったかもしれないです。 ヒロインの人を選ぶということは大事だから、頑張ってやらないとダメかもしれないみたいなことで。 だからオーディション中も、あまり自分の演技を出すというより、ヒロイン役を受けに来た人たちがちゃんと演技ができるように…という立ち位置なので、あまり自分を売り込むみたいな感じではなかったです。僕は候補者5人の相手役をやりました」 ――岸監督が何かのインタビューで「それぞれみんな違うアプローチをしてくるのを前原さんは臨機応変にしっかり合わせることができていたのでキャスティングした」とおっしゃっていましたね 「それは知りませんでした。でも、特殊なオーディションだったんですよ。普通のオーディションは、5人が横並びで一人ずつやるだけなんですが、1時間に一人という感じで。『5時間もあるんだ…』とか思って、いろんなことが結構新鮮でしたね。 でも、後々聞くとヒロインのオーディションは3日間に分かれていて、オーディションの相手役をした人も3人いたみたいなので多分15人くらい見ているんですよね。 だから、もしかしたら別の人が川崎敬三役にキャスティングされた可能性もあって。『何かすごいことをするなあ』って思いました。 一人で15人のヒロイン候補の相手となったらちょっとしんどいし、日も変わっちゃっているだろうから空気感とかも変わるだろうし…とか考えると面白いオーディションの仕方だなって。 でも、僕が最初に相手をしたのが、最終的にヒロインに決まった木下あかりさんだったんですよ。それも面白いなっていうか」 ――ご自分も何かの役で出してもらえるかもしれないという思いは? 「なかったです。役がないから、多分ヒロインオーディションの相手役として呼ばれたんだなと思っていたというか。でも、それが顔見世として、『今後一緒にできたらいいね』的なメッセージだと思っていたので。 元々そこに対する欲を出すときには出すけど、普段は出さないというか、全くないんですよ。飲み会とかで『プロデューサーです』とか言われても、あまりいかないです」 ――ここぞとばかりにガンガン売り込む人も結構いますよね 「それはそれですごいステキだなって思うんですよ。常に全身前傾姿勢というか。僕はそういうところがあまりなくて、『ここだな』って思えないとできないというか。 だから『あゝ、荒野』のときも、その作品に出してもらうというより、まずは見てもらっていずれ…ぐらいの感じだったんです。 ただ、ヒロインのオーディションで5人目ぐらいのときに、さすがに疲れてしんどくなってきて。結構重ためのシーンも多かったんですよ。 それで、終わる間際ぐらいに、岸さんが僕に向けて『いいですね』ってジェスチャーをやっていたときがあって。その時の何かが多分良かったんだと思うんですけど。で、未だに何かわかんないです。聞いても覚えてないでしょうしね」 ――ものすごくインパクトのある役ですが、聞いたときはどう思われました? 「あの役をいただいたときは、ただただうれしかったです。それまでフルネームの役をちゃんと任せてもらえることがなかったので、シンプルにうれしかったです。 そのときは、まだ準備段階の本とかしかなかったんじゃないかな。『川崎敬三という役です』と言われて原作を読みました。それで台本をもらって、『面白い役だけど難しいなあ』って。そこからボリュームが増えたり減ったりとか色々あって、最後にああいう形になったんです」 ――前篇のクライマックスで壮絶な死を遂げて印象的ですよね 「変な場面ですしね。ボクシングじゃないところに入ってくる物語だから、見る人によっては、『あのシーンいらないんじゃない?』って言う人も多分いらっしゃるんですよね。でも、映画で初めてちゃんと反響をいただいた役柄なので、すごく思い出深いです。あの作品はチームもすごい好きですし、またご一緒したいなって思うチームです」 ――完成した作品をご覧になっていかがでした? 「あまり覚えてないというか、それどころじゃなかったというか。試写を見て、まず映画の方にちゃんと喰らったというか。自分の場面がどうこうとかよりも、『ヤン・イクチュンさんと菅田将暉くんすごいな』みたいなところに入っていた気がします。壮絶でした。『これはすごい映画になるな』って思いました」 衝撃的な役どころを演じ切り注目を集めた前原さんは、連続テレビ小説「まんぷく」、「あなたの番です」などに出演。2021年には、「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」(池田暁監督)で映画初主演を果たし、同年、映画「彼女来来」(山西竜矢監督)にも主演。次回は撮影エピソードなども紹介。(津島令子) ※前原滉プロフィル 1992年11月20日生まれ。宮城県仙台市出身。高校卒業後、「トライストーン・エンタテイメント」の直営の俳優養成所に入所。近年では連続テレビ小説「らんまん」(NHK)、「VRおじさんの初恋」(NHK)、「クラスメイトの女子、全員好きでした」(読売テレビ)、「スカイキャッスル」、映画「笑いのカイブツ」(滝本憲吾監督)、映画「沈黙の艦隊」(吉野耕平監督)、映画「マッチング」(内田英治監督)などに出演。主演映画「ありきたりな言葉じゃなくて」が公開中。 ヘアメイク:ゆきや(SUN VALLEY) スタイリスト:矢島世羅
テレビ朝日