【#佐藤優のシン世界地図探索73】モスクワから見たウクライナ軍の「クルスク逆侵攻」
佐藤 成立しないシナリオです。 ――しかし、すでに奇襲は始まっちゃいましたし、ロシアの対テロ作戦も開始であります。 佐藤 結局は総力戦です。なのでそう考えた場合、一喜一憂する必要はありません。重要なのは、ロシア国民が事態を理解し、プーチン政権を心の底から支持しているという現実です。 ――ロシアは、現状をウクライナとの戦争ではなく西側連合との戦いだと理解し、一切の動揺がない。 佐藤 その通りです。そして、とにかくテロリストを皆殺しにしろ、外国勢力と繋がった干渉軍を打倒せよ、ということです。どんな政治意図があるか不明だが、外国勢力と繋がりのある組織は論外だ、という感じになっています。 だから、ウクライナはクルスクの局地戦では、一時的に優勢になる可能性があります。しかし、この戦争でウクライナが勝利することはありません。 ウクライナも西側連合も、これまではあくまでも防衛戦争だから、国境を越えることはないという前提でした。にもかかわらず、ゼレンスキーは今回、レッドラインを越えたことで「レッドラインとなるモノが存在しないとわかった」と公言しています。要するに「何でもあり」ということです。 それは全面戦争を望んでいるというシグナルです。つまり、核戦争を含め第三次世界大戦が起きても構わないということです。 ――そこにはNATOももう、付き合う気はない。 佐藤 付き合いきれません。米国も及び腰です。 ――これから、どうなりますか? 佐藤 クルスクにいる傭兵部隊は皆殺しになるので、殺された傭兵と同数の予備兵力を持って来ないとなりません。クルスク州一部地域の占領にウクライナが固執すると、ウクライナ国内で「人間狩り」と形容できるような徴兵が始まります。 ――そしてクルスク戦域に投入されれば、ウクライナ兵ではなくテロリストである傭兵と認定されているから、捕虜にならず皆殺しにされてしまう。 佐藤 さらに、ドネツクが獲られる可能性も出て来ました。 ――ウクライナの思うようにはいかないと。 佐藤 いきません。 次回へ続く。次回の配信は2024年9月6日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生