【#佐藤優のシン世界地図探索73】モスクワから見たウクライナ軍の「クルスク逆侵攻」
佐藤 そういう状況になっています。いまはウクライナとの戦いという意識ではなく、西側干渉軍との戦争であるという事柄の本質が分かったというわけです。 ――それはなぜですか? 佐藤 今回の件に関しては、追加的に供給した米国の兵器を使って、米国の了承を得た下で行われているというのがロシアの認識だからです。また米国大統領選と絡んで、ウクライナに成果を出させたいというバイデン大統領の意向も働いているというのがロシアの受け止め方です。 このクルスク侵攻が始まったタイミングで、ドイツはウクライナ人ダイバーに逮捕状を請求しました。22年に、ロシアとドイツをつなぐ海底天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム」が破壊された事件に関してです。そして、それをウォールストリートジャーナルも報道しています。 つまり、ヨーロッパがウクライナ戦争から逃げ出し始めているわけです。 ――ドイツは保険をかけるために、ウクライナ人を指名手配したと? 佐藤 そうです。我々はこの連中と一緒ではない、というアピールですね。 ――傭兵を出しているポーランドは、どうやって逃げるつもりなんですか? 佐藤 逃げられないでしょう。最も多くの傭兵を出していますからね。 ――逃げられないポーランド。逃げ始めたドイツ。 佐藤 そして、ウクライナはクルスク攻勢によって、ウクライナにとって有利な条件で講和できるのではないかという夢を見ていますが、それは難しいでしょう。ウクライナがロシアよりも予備兵力が少ないことも考慮する必要があります。 一方のロシアは、徹底した形で反テロ作戦を実行すると宣言しています。そういうことなので、ある程度、おそらく3ヵ月ぐらいの時間はかかると思います。 ロシアは「ウクライナから侵入してきたテロリストを完全に中立化(≒皆殺し)にする」と言っていました。その代わり、ロシアの国民に対しては「こちらが皆殺しにすることをウクライナの傭兵部隊も分かっているから本気で抵抗する。だから、かつてない凄惨な戦場になる」と伝えています。 ――先にひと言、断りを入れているわけですね。 佐藤 そうです。なので、ロシア兵たちには「傭兵やテロリストの捕虜は獲らない。連中とは生きるか死ぬかの戦いだ。一歩も下がるな、死ぬまで戦え」という話になると思います。 ――ウクライナの傭兵に対して「ノープリズナー・ノーマーシー(無捕虜・無慈悲)で行け」と。そして、自軍兵士には大日本帝国陸軍の戦陣訓。「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪渦の汚名を残すことなかれ」と! 佐藤 だから、硫黄島みたいな感じになってきたということです。いずれにせよ重要なのは、ロシア国内にまったく動揺がないことです。 ――これは、ウクライナは困りましたね。 佐藤 ゼレンスキーは情勢を深く分析せず、希望的観測に基づいて、一定の領域を取っておけば和平交渉になり、土地の相殺でもできると思っているのではないでしょうか。 ――そう思っていると思いますよ。