玉川徹、兵庫県知事のパワハラ告発問題「記憶にない」発言に言及「非常に官僚的なニュアンスを感じる」「国会の証人喚問だと“記憶にございません”は定番」
◆公益通報者保護法では告発者を守れない?
玉川:公益通報が社会のためになるというのはわかりました。その際にすごく大事なのは、公益通報者がリスクを抱えて通報するわけですよね。つまり、その人は潰される可能性がある非常に危険な状態であるわけですよ。告発者を守る必要があるから公益通報者保護法ができたと思うのですが、今って法律が不十分なんじゃないかと思っています。今回も告発者が守られなかったわけじゃないですか。 奥山:おっしゃる通りで、公益通報者保護法が実現できているというのは、ほんの気休め程度に過ぎません。今回、兵庫県は公益通報者を違法に弾圧した、違法に不利益な扱いをした、と疑われているわけですけども、今回のケースでは何の罰則もないんです。民間の事業者の場合でしたら消費者庁、監督官庁が行政指導をするといった法に基づく手続きがありますが、地方自治体あるいは国の機関については適用除外となっています。 玉川:なぜ除外なのでしょうか? 奥山:国の機関が地方自治体に対して指導するというのが、そもそも国と地方自治体との対等な関係に反するのではないかという考え方があります。今回のケースは体制整備義務の違反ということになりますけども、地方分権の趣旨への配慮もあって何の制裁も罰則、措置もありません。当事者同士が裁判をするという道もあるのですが、今回は当事者の方がお亡くなりになっていて難しいというところがあります。 玉川:法律を変えるとなると先の話になりますが、県は行政機関なので法の趣旨を真摯に受け止めて、それに対する体制をまず作らなければいけない組織だと思うんですよ。そこの部分の責任は当然あると思います。 奥山:責任はもちろんあります。知事を筆頭とする執行部に対抗する形で議会がありまして、執行部がやっているおかしなことを議会が正そうと動いているのが現在の状況です。
◆「記憶にない」発言の真偽に迫る
玉川:奥山さんは百条委員会を終えて、かなり厳しいことをおっしゃっていましたよね。 奥山:「独裁者が反対者を粛正するかのような陰惨な構図になってしまっている」と申し上げました。厳しい言葉だとは思いましたけども、あの日の午後から翌日にかけて百条委員会をずっと傍聴させていただきました。そこで知事や副知事、あるいは産業労働部長の証言を聞いて、やはりその通りだなと思う場面が多々ありました。 たとえば、今回の告発文書について、知事が、「だれがどんな意図で書いたのかを徹底的に調査しろ」と指示し、そこから調査が始まったわけですけれども、それから間もないころに総務部長が「教育委員会では、そういう案件については第三者に調査させることが多いんです」と副知事に言ったそうです。これはすなわち、第三者調査委員会を設置したほうがいいと副知事に進言した、ということです。 総務部長は教育委員会に勤めたことがあるそうでして、学校の教育の場ではいじめや体罰などが起きれば第三者委員会が作られるんですね。副知事は自分で知事に進言するのではなく、総務部長から知事に進言させたほうがいいと思ったのでしょう、「それを知事に言えや」と総務部長に助言したそうです。すると、そのあと総務部長から副知事に対し、「知事に言いましたが、知事は『第三者機関は時間がかかるよね』と否定された」と報告があったとのことでした。このように副知事は9月6日に百条委員会で証言しました。 その9月6日の午後に知事の証人尋問があり、その件について質問が出ました。斎藤知事は「第三者委員会をやりましょうとか、そういう話はなかったと記憶しています」と答えました。第三者調査委員会を設けるべきだと進言された記憶はないというのが知事の証言なのですが、詰められると、知事は「話には出たかもしれないですけど、積極的にやりたいという話でもなかった」とも言った。 おそらく、総務部長は「第三者委員会をやるべきだ」と言ったのではなく、「第三者委員会というやり方があるんですが」という程度の言い方だったのかなと思われ、それをとらえて、知事は「進言された記憶はない」と言ったのだと思います。 玉川:僕は斎藤知事の一連の答弁を聞いていると、非常に官僚的なニュアンスを感じるんですね。僕も取材で国の官僚と一対一でインタビューしたことを思い出すんですけど、法律的に言質を取られないように逃げて乗り切ろうとするんですね。 斎藤知事も、もともと総務官僚ですよね。「記憶にない」と言っておけば嘘にはならないわけですよ。はっきりしたことを言ってしまうと、それに対する反論が来てしまうから。国会の証人喚問だと「記憶にございません」は定番なんですよ。今回の百条委員会もそうで、記憶がないと言えば済むんです。これも法的にこれでいいのか、と思うところです。 奥山:記憶にないと言いつつも、結局詰められたときに「話には出たかもしれない」と認めておりますので、私から見ると、彼は誠実に答えているとは思いました。彼は総務部長から第三者委員会の話をされたとき、やるべきだという「進言」だとは受け止められなかった。 玉川:それはちょっと違うかなって僕は思いますね。公益通報があって、わずか数日後には状況を把握して知事は動きだしているわけです。当然ながらその素早い対応は、知事を続けていくうえで障害になると思ったからこそなんです。いわゆるやってはいけない告発者探しも始めているわけですよね。つまり、この問題の重さは十分わかっているわけです。 なるべく早くやりたいから、第三者委員会なんかないほうがいいという話の流れもあったので、進言されれば「それはまずい」と彼は思ったんじゃないかなと当然推認できるんです。 あれだけ頭のいい彼が、それを覚えていないわけがないです。記憶にないと言ったのは整合性のために言ったんじゃないかなと僕は思います。 (TOKYO FM「ラジオのタマカワ」放送より)