サイン盗みアストロズにもうひとつの疑惑…ボールの回転数をアップさせる何かの不正をやっていた?
話を戻すと、松ヤニの使用は、ばれないようにやる限り、それが咎められることはない。審判も分かっている。むしろバッターも、ボールが滑って頭の上を通過するぐらいなら、松ヤニを使ってほしいと思っている。 しかしもし、滑り止めとして松ヤニを使うのではなく、選手評価、つまり契約をも左右しうる回転数を上げるために、松ヤニ以上に強力な何かを使っているのだとしたらどうか。 それこそが、バウアーの問題提起である。 もちろん、必ずしも回転数の高い球がいい、というわけではない。しかし、球質を構成する一要素ではある。仮に回転軸が変わらなかったとして、その球の回転数が突然、数百回転上がったらどうなるか。 回転軸が分からないので参考程度だが、2015年と2018年を比較し、球速にほとんど変化がないものの、回転数が上がっている投手を何人か抜き出して調べたところ、一様に打者がスイングして空振りする率が増えていた。
もちろんさらに厳密に調べれば例外もあるだろうが、傾向としては想定内だ。 結局あのときは、インディアンスのテリー・フランコーナ監督が、今回のサイン盗みの件で解雇されたアストロズのAJ・ヒンチ監督に謝罪する形で、収束に向かった。もちろん、アストロズに調査が入ることもなかったが、あれだけ組織的にサイン盗みをやっていたとなると、他にもなにかあるのでは、と勘ぐりたくもなる。 今回、大リーグ機構は、映像などを使ったサイン盗みは監督、ゼネラルマネージャーが処分の対象となる、というメッセージを送った。過去の事例に照らし合わせても、アストロズだけが特に悪質というわけではなく、それでもこういう落とし所としたのは、見せしめ的な意味合いがあるのだろう。他にもやっているところがありますよね、それも分かってますよ、と。 バウアーも同じで、特にコールを標的としたのではなく、回転数を上げるために松ヤニ以上に強力な何かを使っている人はバレてますよ、と伝えたかったよう。ただ過去のことがあったばかりに、確執と捉えられ、意図した方向に流れを導くことはできなかった。 それが彼の不器用なところだが、コールの平均回転数はその後さらに上がり、昨季の4シームは2530回転だった。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)