少子高齢化が急速に進む中国、一部地域で異例の出生数増加。ベビー業界に嬉しい悲鳴
中国では新生児が急速に減り、少子高齢化社会が進んでいて問題化している。時期としては2017年から出生数の減少がはじまった。つまり「7年連続」で減少している。日本では人口ボリュームである団塊ジュニアから氷河期の世代の不遇な境遇のせいで結婚できる状態ではなかったが、他方中国では一人っ子政策で結婚適齢期世代の人口を絞り、結婚に必要な諸費用や、結婚後の教育費がかかりすぎる上に、近年は不景気であることが主な原因と言われている。 中国人口統計のグラフなど、もっと写真を見る ところが中国の一部地域で出生数の減少に歯止めがかかり増加に転じた。上半期のデータを見てみると、例えば南部の広東省の出生数は前年同期と比べ1.4%増加した。北部の山東省青島市でも5.93%増加し2年連続の減少から逆転した。西部の陝西省宝鶏市で10.7%増、中部の湖北省天門市で8年ぶりに減少から増加に、東北部の黒竜江省大慶市でも出生数が大幅に増加したと保健委員会が発表した。長年人口減少に悩まされている東北地方や若い労働者が各地に向かう中部、それに西部の地方都市や、それに沿岸部の山東省や広東省まで出生人口が回復した。 一体何が起こったのか。これにはいくつかの要因がある。 まずはゼロコロナ体制で結婚や出産の計画を延期していた人々が動き出した。統計によると、2023年の中国の婚姻届数は768万件で、2021年、2022年を上回った。婚姻届数の増加もまた過去10年で初めての回復だ。前年に結婚した若者が、翌年に子供を授かった。 次に景気、意外なことに不景気だ。様々な業界でリストラが進む中で「どうせ仕事が見つからないならその間に子供を作ろう」「育休制度を活用し、リストラ前に子供を作って育休に入っておこう」という戦略的出産だ。 そして政府補助も出生数増加を後押しした。出産に医療保険を適用できるようになったほか、自治体が出産一時金の支給や住宅購入への補助金など、さまざまな出生奨励金導入を発表した。例えば湖北省天門市では、第2子がいる家庭に9万6300元(約200万円)、第3子がいる家庭に16万5100元(約350万円)の出産一時金を支給する政策を打ち出した。 なによりも大きい原因は、今年は辰年だということだ。古来より中国ではドラゴン(龍、辰)というのは縁起がいい。1952年から2023年までの十二支が6巡した期間において、各干支の出生数を合計したデータでは、辰年生まれが最も多く、次が“ミニドラゴン”の巳(へび)年だった。辰年生まれの人口は丑(うし)年生まれの人口より2300万人余り多く、北京や上海クラスの大都市ひとつ分ほどの人口差がある。 前回の辰年は2012年となる。この年の出生人口は1973万人で、21世紀では最高値を記録。まさに「ドラゴンベビー(龍宝宝)ブーム」といえよう。2010年代生まれの子供たちは2018年には小学校入学となり、多くの親が小学校選びに苦心した。一方、小学校側は児童の数がキャパシティを超えたため、多くの希望者を切り捨てるしかなかった。子供たちは今12歳で中学受験を迎えている。余談だが、前々回の辰年は2000年生まれで現在24歳だ。大学進学率が高まり大学に進学するも、ゼロコロナ前からネット企業をはじめとして不景気の足音が忍び寄り、就職難に直面した世代となる。 さて2024年のドラゴンベビーは2012年に比べれば人口ボーナスとはいえ、小さな人口の山でしかない。2012年時と比べれば学校には入りやすくなるが、ただ定年の年齢引き上げの影響で彼らの祖父母は退職せず、両親だけで子どもの面倒を見つつ仕事と両立しなくてはならず、祖父母から面倒を見てもらえない世代になるのではとの分析も。中国では、両親だけでなく祖父母が子どもの面倒をサポートする世帯が多く、親族全員で子育てをするという考え方がある。 このように出生数増加の背景を調べると、様々な要素が重なりあった偶然によるものだとわかる。ただ、辰年と次の巳年はまだいいものの、もうその後は期待はできず、出生数は減少を続けるだろう。 今後はベビー産業が縮小していくとはいえ、今年は「ボーナス」といっていい。今年は新年早々、広州の産後ケアセンターがほぼ満室だと発表し、予約が取りづらくなっていた。産院やケアセンターだけではなく、ベビー・マタニティ用品市場も回復した。天猫(Tmall)、京東(JD.com)、抖音(Douyin)などの主流電子商取引プラットフォームで粉ミルクと紙おむつのトップ10ブランドは、いずれも2024年第1四半期に大幅な売上増加を記録した。さらに乳児用おむつ市場と乳児用栄養製品市場のオンライン売上高も前年同期を上回ったとし、米調査会社ニールセンも短期的な回復をしているという結果を発表している。 ベビー・マタニティ市場が近年まれになく盛り上がっている中国。そしてその影響は日本にも出てくる(既に出てきた)かもしれない。日本のベビー・マタニティ用品は安心な品質で中国でもよく売れている。一時期は処理水のネガティブな話題もあり買い控えもあったが、処理水問題も一段落したことで今後需要は高まりそうだ。 (文:山谷剛史)