場末の映画館が全国のファンが訪れる「聖地」に…兵庫・塚口サンサン劇場の仕掛け人に訊く、町の巻き込み方
2024年7月7日に開館71年目を迎えた、関西のミニシアター「塚口サンサン劇場」(兵庫県尼崎市)。その名物社員・戸村文彦さんが5月に上梓した『まちの映画館 踊るマサラシネマ』(西日本出版社)が、重版されるほどの評判を呼んでいる。 【写真】開館71年目を迎えた「塚口サンサン劇場」 閉館寸前だった「場末の映画館」(戸村さん談)が、全国の映画ファンが訪れる「聖地」になった過程は、映画関係者に限らず、地元密着型で活動する人たちからも注目を浴びているそう。そこで、著書の中で取り上げられたいくつかの取り組みをキーワードに、「町の◯◯」になるための秘訣を戸村さんに語ってもらった(取材・文/吉永美和子)。 ■「必ずしも映画を上映する必要はない」という選択肢 ──『まちの映画館』、大変おもしろかったです。映画館に限らず、ライブハウスや小劇場なども参考にできそうな話がいっぱい詰まっていると思いました。 ありがとうございます。コロナの頃に配信していたコラムを、西日本出版社さんが「ほかのジャンルにも向けたメッセージ性がある」と興味を持って、出版までしてくれました。実際に別の業種の方からも「刺激を受けた」というようなコメントを、チラホラいただいてます。 ──15年前は閉館寸前だったと記されてましたが、今となってはそれが嘘みたいです。 映画という娯楽は絶対なくならないけど、劇場という場所はなくなってしまう。じゃあ映画「館」を残すにはなにをすればいいか? と思ったときに、「必ずしも、映画を上映する必要はない」という選択肢を持っておいた方がいいと思いました。 大きなスクリーンと最高の音響、座席と空調がちゃんとあって、安心安全という、映画館の特徴を活かせるものであれば、映画だけにこだわる必要はないんじゃないかな? と。本には書いてないんですが、脱出ゲーム(2016年の『あるレイトショーからの脱出』)をしたこともあります。 ──なにかの作品絡みのイベントだったんですか? まったくないです(笑)。どうせならバックヤードも含めて、映画館を全部使ってもらいたいと思ったので、映画を全部ストップしました。 ──その発想も大胆ですね。とはいえやっぱり、マサラ上映や発声上映などの「映画鑑賞をイベント化する」という試みが、やっぱり劇場にとって大きかったのでは。 映画ってどこで観ても同じ内容ですけど、鑑賞にプラスアルファを入れたら、ここでしかできない体験や体感ができる。その方がお客さまの記憶や印象に、すごく残るんじゃないかと思いました。 「映画館は静かに映画を見る場所」であることは基本なのですが、それをちゃんと守ってくださるので、たまにはこういう上映スタイルもいいんじゃないかと。このことに気付かなかったら、今頃どうなっていたか想像できません。 ■ お客さんがやりたいものは「正解に決まってる」 ──そこで出てくるのが、もう一つのキーワード「受動的な鑑賞から能動的な鑑賞へ」です。日本の映画館全体もそういった流れになってきていますが、企画を売り込んでくるファンまでいるのは、本当にサンサン劇場さんぐらいではないかと思いました。 『パシフィック・リム』の「激闘上映」は、まさにお客様からの提案でした。お客さんが「やりたい」という言うものは正解に決まってるから、じゃあそれをやればいいや、っていう(笑)。 『マッドマックス』や『キングスマン』(の応援上映)辺りになると、コスプレをしたり、アイテムを持って来る流れができるようになりました。お客様が先頭を走ることができる道作りをして、劇場はその後を追っていくという形です。本当にいいお客さまにめぐりあえたし、それは非常にラッキーだったと思います。 ──そうやってお客様が提案しやすい雰囲気を、普段から作っていたのですか? もともとお客さんと劇場の間に変な壁がないから、すごくスタッフに話しかけやすいと思います。やっぱりここで何十年もやっていて、地元密着というのが非常に大きかったと思いますし、尼崎という土地柄もありますよね。あとはX(旧ツイッター)が、非常に大きかったです。